本連載の第180回では「DAO(分散型自律組織)に学ぶ新しいインセンティブの設計方法とは」という話をお伝えしました。今回も引き続きDAOに関連して、DAOやweb3界隈で求められる振る舞いについてお話します。

DAOとは、ブロックチェーンをベースとしたweb3界隈で流行っている「分散型自律組織」という全く新しい組織形態です。英語の”Decentralized Autonomous Organization”の頭文字を繋いでDAO(ダオ)と呼ばれています。

DAOでは株式会社で働く社員が労働の対価として得られる給料のような固定的な報酬はありません。また、上司と部下のような上下関係や、それと紐づく指示命令系統もありません。そのため、株式会社のような従来の組織以上に、仲間同士が相互に信頼できていることがプロジェクトの成功に不可欠です。

そして、役職や権威がない中で信頼を得るには、その人が常日頃からどのような振る舞いをしているかが問われます。それがどのようなものかを考える上では「積極性」、「利他主義」、「寛容」の3つがキーワードになります。

1. 自分から積極的に動く

従来型の組織では程度の差こそあれ上司の指示に基づいて動くのが求められるので、その指示を受けて動くといのはごく自然なことです。むしろ、上司の意図に沿わないことを勝手に行ってしまうとその結果がどうであれ、信頼を損なってしまうことがあるかもしれません。

その一方、DAOでは上司のような存在がいないので、最初から誰かの指示を待っているだけでは何も起きませんし、何もできません。そして、何も行動していなければ仲間との信頼関係を構築することは難しいでしょう。

そのため、誰かの指示や依頼を待つのではなく、自分自身で何をすべきかを考えて行動に移す積極性が求められます。とはいえ、行動しようといっても最初から大層なことを行う必要はありません。それは例えばDAOでよく使用されるチャットツールのDiscord上で仲間に挨拶をしたり、誰かの行動を賞賛したり、それを拡散したりすることいった些細なことでもいいのです。

一つ一つの行動は小さなものかもしれませんが、それを続けていくことで徐々に仲間の信頼を得ることができるのです。

2. 利他主義に徹する

自分の利益しか考えない利己的な人は従来の組織でも敬遠されやすいですが、仮にその人が自分の上司だったりすると、感情的には嫌でも指示を受け入れざるを得ないことは多々あるでしょう。

翻ってDAOのような組織では一旦、仲間から「自分の利益しか考えない利己的な人」と認定されてしまうと、信頼を得るどころか人が離れていってしまいます。信頼を得るには、自分が相手から何かをもらうことを期待するよりも、自分が相手に何をあげられるかを考えて行動する方が大事なのは当然ですね。

とはいえ「いつもあげてばかりでは、自分が利益を得られないのではないか」という疑問を抱く人もいるでしょう。しかし、利他主義に徹することで得られる「仲間の信頼」は、巡り巡って長期的にはその人自身の財産になるのは間違いありません。まさに「情けは人の為ならず」というわけです。

いつも利他主義的に振舞っている人が何かのトラブルに巻き込まれて窮地に陥ってしまっていたら、多くの仲間が手を差し伸べてくれるでしょう。また、自分がいつもその人から何かをもらっていたら、今度は自分がその人に御礼をしたいと考えるでしょう。

もちろん、「後から人に助けてもらったり御礼をもらったりするために」利他主義になろうというわけではありませんが、長い目で見ると目先の利益を得るより遥かに得るものは大きくなるでしょう。

3. 寛容になろう

web3やDAOという概念はそれ自体が新しく、取り巻く環境変化のスピードが凄まじいため、昨日まで上手く行っていたことが今日は悪手になってしまうということが珍しくありません。そのため従来型の組織のように、半年先や一年先を見越しつつミスのないように入念に準備をし、満を持してリリースというようなことが通用しにくくなっています。

このような環境においては、「最初から完璧なもの」をリリースしようとするといつまで経っても実現できません。とにかくスピード重視で試行錯誤を繰り返しながらプロジェクトを進めていき、調整しながら手探りでベターな手を探っていくことが肝要です。

そのため、DAOの中での振る舞いとしても仲間が何かに挑戦した結果、失敗したりミスしたりしたとしても、それを咎めるような振る舞いは歓迎されません。その反対に、仲間の失敗やミスに対して寛容でいることが、周囲の信頼を得る上で必要になります。

但し、念のために付け加えておくと悪意を持った行為に対して厳格に対応するのは必要なことだと思います。あくまでも失敗やミスに対してのスタンスとして捉えてください。

以上、DAOでの仲間の信頼を得るための振る舞い方について「積極性」、「利他主義」、「寛容」という3つのキーワードを使って説明しました。これらはもちろんDAOに限らず、色々な組織の中でも応用が効くのではないでしょうか。ご参考になれば幸いです。