本連載の第17回では「パソコンのデスクトップ、散らかっていませんか」と題し、業務効率を上げるフォルダとファイルの整理方法をお伝えしました。本稿では個人のフォルダから社内や部署内での共有フォルダに視野を広げ、効率的なデータ管理のコツを説明します。
全社または部署内の社員間の資料共有のために共有フォルダを使用しているという職場は多くありますが、中には共有フォルダが全く整理されておらず、迷宮のようになってしまい、必要な資料を探すのに手間を要する状況に陥っているケースをお見かけします。
共有フォルダを使用することは、それ自体が社員による情報の抱え込みの防止や社員の急な欠勤や退職への備えになるので、とても意味のあることですが、ただ共有フォルダを導入すれば済むという話ではなく、使い方や運用方法を誤ると、かえって業務効率の低下を招きかねません。
フォルダ構造の設計
多人数で共有フォルダを漫然と使用していると、様々な不都合が生じます。使用者が各自好き勝手にフォルダを作成することで、気がつくと迷宮のようになってしまったり、フォルダ階層が深すぎて目的のファイルに辿り着かなくなってしまったり、似たような名称のフォルダが複数作られて混乱を招いたりといった不具合が起こります。これではせっかくの共有フォルダが、かえって業務効率を妨げる厄介者になってしまいます。
そうならないために、共有フォルダを使う際は、実業務での運用に入る前に業務の流れや特性を考慮してフォルダ構造を設計しておくことが肝要です。そもそも共有フォルダには何の資料を格納するのか、誰が何の業務でどのように使うのかを考慮して、使いやすくて業務の効率化にも資するフォルダ構造を設計するのです。
フォルダ構造の設計時に考慮すべき主要なポイントについては、すでに前回のコラムにてお伝えしているので割愛しますが、共有フォルダは自分以外の社員も扱うことを考慮して「何の資料をどこに置くのか」と「自分がどのフォルダを使えばよいのか」を使用者が見て瞬時に判断ができるようにすることが大事です。あくまでもフォルダ使用者の目線で使い勝手を考えるということです。それを怠ってしまうと、「共有フォルダは使いにくい」と感じた社員が使用を敬遠してしまい、せっかくの共有フォルダが無用の長物になってしまいます。
ファイルの命名ルールの策定
設計した構造通りにフォルダを作成できても、まだ安心はできません。自分ひとりで使用しているフォルダならまだしも、共有フォルダとなると様々な人が使用するので、必然的に新しく作られるファイル名が無秩序なものになりやすくなります。そして、ファイル名が無秩序になってしまうと、古いファイルと新しいファイルを取り違えて使用してしまったり、そもそも目的のファイルかどうか判別がつかなかったりして、トラブルを招くリスクが高まります。
このようなリスクを低減するには、共有フォルダの使用者にファイルの命名ルールを徹底することが効果的です。まずは新旧のファイルを区別しやすいように、バージョン管理のための情報をファイル名の最後に付与することをお勧めします。
最初に作成した仕掛の資料には"v0.1"という文字列を付与し、更新するごとに"v0.2""v0.3"……と増やしていくのです。そして一旦、完成したら"v1.0"にします。そこからさらに更新が必要になった場合は"v1.1""v1.2"……と増やしていき、第二版として完成したら"v2.0"にします。なお更新頻度が多ければ"v0.01""v0.02"……と小数第2位まで使用するのもよいでしょう。
ファイル名にバージョン情報を付与することでファイル間の新旧は把握できますが、実はそれだけでは「そのファイルが最新かどうか」は判別できません。例えばあるフォルダに"v1.0"と"v1.1""v1.2""v1.3"と4つのファイルがあった場合、そのフォルダ内のファイルとしては"v1.3"のファイルが最も新しいとは言えますが、他の場所に"v1.4"や"v2.0"などのより新しいファイルが存在する可能性を否定しきれません。
そこで、ファイルを更新してバージョンを上げた際には、古いバージョンのファイル名の最後にバージョン情報に加えて"old"という文字列を追記していくとよいでしょう。それによって、先ほどの例でいえばフォルダに"v1.0old""v1.1old"と"v1.2_old""v1.3"があった場合、"v1.3"が最新であるという確証を得られます。
なお、ここで大事なのは最新のファイルの名前に"new"と記述するのではなく古いファイルの名前に"old"と記述することです。実際に試してみるとすぐにわかることですが、ファイルを更新する度に"new"を付与していくと、たちまち"new"の付いたファイルが増殖してしまい、最新ファイルの識別子として全く機能しなくなるのです。
また、新旧の識別に加えて目的のファイルかどうかを判断できるようにするためには、煩雑になりすぎない程度に具体的な情報をファイル名に付与することが大事です。例えば共有フォルダに"会議資料_v1.0"というファイルがあった場合、ファイルを作成した本人は何の会議の資料かを知っていても、他の人にはさっぱりわからないでしょう。
そのため"経営企画会議20190921v1.0"のように、会議の名称を入れておくことに加えて「いつの会議か」がわかるように日付も追記することをお勧めします。さらに、同一の会議で複数の資料を扱う場合などには"経営企画会議本編資料20190921v1.0""経営企画会議参考資料20190921v1.0"のように、より詳しい情報を入れることで区別できます。
このような命名ルールをまとめ、使用者に徹底することでファイル名の情報不足や紛らわしさから解放され、必要なファイルを素早く識別することが可能になります。
共有フォルダ管理体制の構築
複数の人が使う共有フォルダは、その性質ゆえに長期間使用しているとフォルダ構造が複雑化してしまったり、ファイルの増殖に伴いデータ量が増え続けて、ファイルサーバーの容量を圧迫してしまったりといった問題に発展することが多々あります。
こうした問題は共有フォルダの運用が事実上、使用者各自の裁量に委ねられていることに起因します。そのため、できれば共有フォルダを導入すると決めた時点で「共有フォルダの運用責任者」を定めておくことが望ましいです。
運用責任者は毎週何曜日、または毎月何日など、あらかじめ定めたタイミングで共有フォルダのフォルダ構造やファイル名などをチェックし、必要に応じて使用者に使い方の是正を求めることで共有フォルダの秩序を保つよう努めます。また、明らかに不要なファイルをリストアップして作成者に削除是非を確認の上、処理することで無駄なファイルの増殖や、それに伴うファイルサーバー容量の圧迫を回避します。
なお、本来残しておかなければならない重要なファイルを誤って削除してしまうリスクを極力抑えるために、「廃棄フォルダ」の活用を推奨します。共有フォルダからファイルを完全に削除してしまう前に一旦、「廃棄フォルダ」内に作成した「X月X日削除予定フォルダ」に移動させて保管し、期日が来たら完全に削除する、という仕組みです。なお、期日到来までの間にそのファイルを必要とする人がいた場合には、その人が自分で「X月X日削除予定フォルダ」から当該ファイルを元の場所に戻すことで、誤って削除してしまうのを免れることができます。
このように、共有フォルダのフォルダ構造とファイルを適正に管理する仕組みを構築し、運用することで業務効率の低下や必要なファイルの誤削除といったトラブルを防ぐことができます。
ここまで、共有フォルダの活用において、よくある課題と対応策をお伝えしました。共有フォルダは自由に使える反面、放っておくと業務効率を下げてしまうことがあるので、ルールや運用体制を整えることで対応しましょう。本稿のポイントを踏まえて、共有フォルダを効率的に活用していただければ本望です。