本連載の第16回では「その資料の印刷、本当に必要ですか」と題し、紙資料を扱うことによる業務負荷と、電子化する際のポイントをお伝えしました。紙資料の電子化と関連して、本稿ではパソコンで扱うファイル整理のコツについてお話します。
自分の机の上は綺麗に整理整頓されているのに、パソコンのデスクトップの画面にはフォルダやファイルが所狭しと敷き詰められている方を見かけることがあります。
すでにスペースがほとんど余っていない状況で、新たにファイルを作成したらどうするのだろうと思って観察していると、作成したファイルをデスクトップ上にある「色々なもの」と書かれたフォルダに突っ込んでしまいました。そのフォルダの中は見せてもらっていないので謎のままですが、中にはきっと本当に多種多様なファイルが「ごった煮」のような状態で格納されているのだろうと推察します。
フォルダやファイルを散らかす弊害とは
ファイルの置き場が整理整頓されていない状況を放置することは、様々な弊害をもたらします。探しているファイルがなかなか見つからずに、気が付くと30分も探すのに時間を費やしてしまったり、それでも見つからないので新しくファイルを作り直したり、作成者から送ってもらったりしている間に結局、1時間も2時間も手間と時間がかかってしまったり、という話を聞きます。それにより、たとえ週にたった2回、1時間ずつ余分に時間がかかったとしても、約5%の業務生産性の低下という影響があります。
さらに、こうした状況は「元々保管してあったはずのファイル」と「見つからないので新しく作成または受領したファイル」の間で、内容がほとんど同じものが重複して存在する状況を作りだしてしまうことにつながります。これは後々になって該当ファイルを探した際に、「どちらを使うべきか」の選択において混乱を招くことになりかねません。また、それを決めるために内容を比較するのに、さらに余分な手間をかけることにもなります。
それに加え、ファイルが散在していることによって「最新のファイル」ではなく「先に見つかった古いバージョンのファイル」にアクセスしてしまったり、「本来選ばなければならないファイル」とは異なるファイルをメールで送信してしまったりといった業務ミスを犯す危険性を上げることになります。
つまり、フォルダとファイルの整理整頓を怠るということは、自分ひとりの業務生産性の低下を招くだけではなく、大事なファイルの紛失や、誤って古いファイルや目的のものとは別のファイルの使用/送信によって、取引先や社内の他部署などに迷惑をかける事態を招きかねないということです。
業務を効率化するフォルダ構造の作り方とは
では、こうした状況はなぜ生まれるのかということですが、1つのフォルダ階層に、雑多な種類のファイルやフォルダが混在していることが要因の1つとして挙げられます。これは机の引き出しを開けたら書類、文房具、領収書、お菓子等の雑多なものが散らかっているのに似た状況です。あまりに色々なものが一カ所にまとまりなく置いてあると、そこから必要なものを探すのに時間がかかってしまいます。
また、フォルダ構造が過度に深い場合も、業務効率の低下を招くことにつながりかねません。特にフォルダが10階層を超えるようでは迷宮のようになってしまい、必要なファイルに辿り着くのに時間がかかり、場合によってはファイルを紛失するリスクも上がってしまいます。
では、このような事態を回避して効率的にファイルを扱えるフォルダ構造をどう作ればよいのでしょうか? そのためには同一階層のフォルダを分ける「軸」と「粒度」を統一することによって「漏れと重複をなくす」ことが鉄則です。
まず「軸」についてですが、例えばある同一階層にあるフォルダが「A社」「商品B」「案件C」「商品Dのカタログ」「営業会議E」とあったとします。これは「取引先」「商品」「案件」「カタログ」「会議」と各々異なる「軸」のものが混在している状況といえます。
この場合の問題点は、例えば「A社に納品する商品Bのスペックを記述した仕様書F」は「A社」と「商品B」のどちらのフォルダに入るのか、といった判断に困る事態を引き起こします。このような時に、その時々の気分に任せて資料を格納してしまうと、後々になって何の資料がどこにあるのかわからなくなり、探す手間が膨大に増えてしまうことになります。
そうならないように、まずは同一階層のフォルダを分ける「軸」を統一しましょう。例えばフォルダの第一階層を「業務の種類」の軸で分けて、「営業業務」「経理処理」「出退勤管理」などのフォルダで構成します。続いて「営業業務」の中に「既存顧客」と「見込顧客」フォルダを置き、「既存顧客」の中に「A社」「B社」「C社」……と各顧客別のフォルダを置き、さらに「A社」の中に「事前調査」「ニーズヒアリング」「見積・提案」「提案後フォロー」のフォルダを置き……という具合に同一階層ごとに統一した「軸」でフォルダを分けていき、全体のフォルダ構造を作っていくのです。
ここまでで「軸」を統一できたとしても、まだ気を付けるべきことがあります。それは「粒度」です。例えば、ある同一階層にあるフォルダが「地域」という「軸」で統一されていたとしても「関東地方」「東京都」「千葉市」「千代田区」……のように分かれていると、「千代田区」に関する資料は「関東地方」「東京都」「千代田区」の全てに該当するので、入れるべきフォルダがわからなくなってしまいます。
また、ここまで露骨な重複でなくても、「業界」という「軸」で分けている場合に「流通業」「卸売業」「小売業」「百貨店」「コンビニエンスストア」……などと分けてしまうと、そもそも「流通業」の中に他の全てが包含されるなど、これまた重複が発生してしまいます。
「粒度」のバラつきによるフォルダ間の重複や漏れを防ぐには、フォルダの作成時に「これらの要素はレベル感が統一されているだろうか」と自問自答しましょう。「関東地方」というフォルダを作成したら、その他のフォルダは「中部地方」「近畿地方」などの「地方」で合わせ、「東京都」であれば「愛知県」や「大阪府」などの「都道府県」で合わせればよいのです。また、「流通業」フォルダを作成したら、その他は「製造業」「金融業」「サービス業」等のフォルダにすると、レベル感が合って「粒度」のバラつきがなくなります。
なお、その際に必ずしも世間一般で使われている区分けを忠実にフォルダで再現する必要はありません。例えば地域別で顧客管理をしたい時に「関東地方」フォルダの中に「東京都」、その中に「千代田区」、さらにその中に「丸の内」というフォルダを作成した場合、その他の地域についても同じように作成しようとするとフォルダの数が膨大になってしまう上に、これだけでフォルダが4階層になってしまうので、「丸の内」以降のフォルダを作成することも考慮すると必然的に階層が深くなってしまいます。そのため、業務を効率的に進める上で「同一階層内のフォルダ数」と「階層の深さ」のバランスを考慮するとよいでしょう。
ここまでで、フォルダやファイルを何も考えずに適当に保管することが、いかに業務効率の低下や資料紛失リスクにつながるかという点と、それを回避するためのフォルダ構造の作り方をお伝えしました。ぜひ一度、本稿でお伝えしたポイントを踏まえて、ご自身や社内の共有フォルダを見直してみてください。