本連載の第161回では「タスク間の「繋がり」を可視化して優先度を判断しよう」と題し、タスク間の繋がりを図に描き、それを基に先に始めるべきタスクを決める方法をお伝えしました。今回は、どうしても解決しない問題について「本当に問題として扱うべきか?」という問いかけをして、そこから前に前進するための考え方をお話します。
「うちの部署は慢性的に人手不足で、余裕がないためいつも殺伐としています。新しく人を採用したいのですが、なかなか良い人が見つかりません」
こんなお悩みを聞いたことがあります。この話をした人は慢性的に人手不足であることを問題として捉えて、それを解決したいと考えているようですがなかなか上手くいかないようです。
そこで次のように問いかけてみました。
「人手不足なのが問題ということですが、なかなか解決しないということですね。では、今いる人数を問題ではなく前提として捉えたら、何が問題になるのでしょうか。」
すると、以下のように返ってきました。
「今の人数を前提とすると、この人数のキャパシティーを業務量が上回っていることが問題ということになりますね」
結局、このやり取りを基に「人手不足を問題として捉え、どうやって人を採用するか」という論点から「今いる人数を前提として、ゆとりを持って仕事ができるように業務量を減らすにはどうしたらよいか」と論点を替えたことで、無事に業務量のひっ迫を解消することに繋がりました。
このように、問題として認識して解決しようとしてもどうにもならないときは、それを前提として考えることで行き詰まった状況を打破できることがあります。
別の例で考えてみましょう。銀行の窓口や病院の診察待ちなど、待ち時間が長いとイライラしますよね。銀行や病院でこのような状況を改善したいと思ったら、まずは「顧客/患者の待ち時間が長いこと」を問題として捉え、どうすれば待ち時間を短くできるかと考えることでしょう。その問題意識を基に業務を抜本的に見直して、どこが目詰まりを起こしているかを突き止めて解消し、待ち時間を減らすというのが王道でしょう。しかし、それは場合によって多くの時間と労力と費用がかかってしまいます。対応を検討している間にも顧客や患者が他に流れてしまうかもしれません。
そこで、問題を「顧客/患者の待ち時間が長いこと」から「顧客/患者の待ち時間のストレス上昇」に定義し直してみたらどうでしょうか。すると、「そもそも待ち時間が読めないからイライラするのではないか」、「待ち時間に子どもが退屈して騒ごうとするのを止めるのにイライラするのではないか」など、場所や状況によってストレスが溜まる傾向が異なることが分かります。
そこまで来たら、「残りの予想待ち時間が分かるアプリを配布して、自分の順番が来る5分前になると通知が飛んで知らせてくれるようにしよう」とか、「子どもが多い病院の待合室では子どもたちを自由に遊ばせてあげられるスペースを作ろう」といった対策を考えられます。
ここまでで、問題を前提として捉え直すことの意義についてお伝えしました。恐らく次の疑問は、「どうやって実践したらよいのか」ということでしょう。
この疑問に対しては「今、自分が問題として考えていることが解決すると、どんな良いことがあるのか自問自答しましょう」というのが答えになります。
最初の例で考えてみましょう。「人手不足が解消すると、どんな良いことがあるのか?」と自問自答すると、おそらく「みんなが余裕を持って働けるようになる」という回答になります。そこで「今の人数」を前提とした上で「みんなが余裕を持って働けるようにするために、何ができるか?」と考えてみます。それによって、当初問題として捉えていた「人手不足」を一旦は前提として捉え、「業務量過多」について問題として認識できるようになります。
また、2つ目の例では「顧客/患者の待ち時間を短くしたら、何が良くなるのか?」と自問自答して、「顧客/患者のストレスが解消される」という回答を得たとします。そこで、「今の待ち時間」を一旦前提として置いた上で「顧客/患者のストレスを解消するために、何ができるか?」と問い直すことで「待ち時間の解消」以外の策を考えることができるというわけです。
職場では日々、色々な問題が発生していることと思います。それらの問題がなかなか解決しない時には、問題として認識していることを前提として捉え直し、もう一つ上の階層から考えてみることでブレイクスルーを起こせるかもしれません。