本連載の第158回)では「なぜ会議の内容が頭に入ってこないのか – 論理に問題がある場合」と題し、議論の論理に問題があるために聞き手が理解できないケースを取り上げました。今回は同じテーマで、聞き手に問題がある場合について掘り下げてお話をします。
会議での議論が全く頭に入ってこないケースについて、そもそも話す側にも問題があるのではないかと疑問を持って過去2回に渡って「論点」と「論理」の2つの側面から考察しました。しかし、やはり聞き手に問題があるケースについても避けては通れないので、今回はこちらに焦点を当てて考えてみましょう。
話し手の議論の論点にも論理にも何の問題がないという前提で、話を聞いても頭に入ってこないというのはどのようなケースが考えられるでしょうか。それには「集中力の欠如」と「前提知識の不足」、「記憶容量の超過」の3つが考えられます。
集中力の欠如(聞いているけど聴いていない)
他のことで頭がいっぱいだったり、寝不足だったりすると集中力を維持できないということがあるでしょう。そのような状態の時に、込み入った議論になったり話がダラダラと長すぎたりする場合に集中して話を聴き続けるのは難しいでしょう。
しかし、「寝不足にならないように気を付けましょう」とか「他のことは一旦、忘れましょう」などと分かり切ったことを言ってもあまり生産的ではないと思うので、他の手をお伝えします。
それは「参加者の注目を集める」ことです。人前でプレゼンする機会のある人は分かると思いますが、たとえ寝不足だったとしてもプレゼン中に眠くなったことがあるという人はいないでしょう。明らかに参加者が自分に注目していると分かる状況では、適度な緊張感が生まれるので眠くなりません。
そうであれば、眠くなりそうなときには自ら進んで議論をリードしたり、積極的に発言したりするのが有効な手になります。もしくは、プロジェクターやモニターなどで自分のパソコンの画面を参加者とシェアしながら、議論のメモを書いていくのも緊張感が生まれるので集中力を持続できます。
前提知識の不足(聴いているけど理解できない)
どんなに集中して話を聴いていても、やはり議論の内容を理解できない場合があります。それは議論に必要な前提知識が不足しているときです。以下、例を見てみましょう。
「DSPを複数のSSPとRTB接続する」
短い文章ですが、これを読んで「ああ、インターネット広告配信の話ね」と分かる人はきっと広告業界関連のテクノロジー、いわゆるアドテクノロジーの前提知識を持っている人に限られるでしょう。
(※DSPとはDemand-Side Platformの略で、インターネット広告配信のためのプラットフォームです。SSPとはSupply-Side Platformの略で、広告収益拡大を目的としたメディア側のプラットフォームです。RTBとはReal-Time Biddingの略で、広告枠をめぐる競争入札がリアルタイムで行われる方式です。)
こういうことは、同じ社内にいる人同士でも、部署が違えば十分に起こり得ることです。営業担当者と経理担当者では業務上必要な前提知識が違うのは異論ないでしょう。こうしたことを踏まえて、他部署の人と込み入った話をする上では分からないことを都度、確認することが大事です。
記憶容量の超過(理解したけど忘れる)
それでは会議の間ずっと集中力を途切れさせず、必要な前提知識を持って内容を理解できれば十分かというと、そうではありません。というのも、一時的に議論を理解することができてもすぐに内容を忘れてしまうようでは意味がないに等しいからです。
特に議論が込み入ってくると、情報過多になって記憶に残らないことがあります。会議の時間が長ければ尚更で、1時間ほどならともかく、2時間も3時間もかかるような会議では、最初の方の議論の内容を半分くらい忘れてしまっていても不思議ではないでしょう。
せっかく一度は会議の内容が頭に入っても、すぐに出ていってしまっては困りものです。とはいえ自分の頭の記憶容量を短時間で増やすのは困難なので、別の手を考えなくてはなりません。
そこで、すぐに思いつくのがメモです。もちろん文章でメモを書いてもよいですが、話を聴きながら文章に起こすには相応のタイピングスキルが必要です。そこでお勧めなのが、パワーポイントやノートなどに話のキーワードだけを書いていき、それを線で繋いでいくことです。長い文章を書くのには時間がかかっても、一言だけのキーワードなら数秒で書けるでしょうし、キーワード間を線で結ぶのには1秒もかからないでしょう。そして、もし余裕があれば線の隣に「協力」「対立」「遷移」といったような、キーワード間の関係性を示す言葉を添えると後から理解するのに役立つでしょう。このような対応は、後からメモとして残るというだけでなく、情報を図式化すること自体が記憶の定着に寄与するので、二重で効果を期待できます。
以上、「会議の内容が頭に入ってこない」という現象を聞き手側の問題に焦点を当てて考察しました。ご自身や後輩・部下などの悩みを解決する一助になれば嬉しく思います。