本連載の第157回では「なぜ会議の内容が頭に入ってこないのか - 論点に問題がある場合」と題し、論点が不明確なために内容が理解できないケースを取り上げました。今回は議論の理解が進まない原因が論理にあるケースとはどのようなものか、というお話をします。
「毎週やっているプロジェクトの定例会、なぜか議論が全然頭に入ってこないんですよ」
耳を傾けて真剣に聞いているはずなのに、どういうわけか議論を理解できないという事態に見舞われたことはありませんか。
これには原因が聞き手にある場合と、話し手にある場合に大きく分けることができます。本稿では話し手に原因がある場合を想定し、その中でも「論理に問題がある場合」に焦点を当てて考えてみます。
「子どもならともかく、大人同士で話し合う会議の場で論理に問題があることなんて、そうそうないのでは」
このような疑問を持つ人もいるでしょう。しかし、会議の発言内容を注意深く聞いていると論理に問題があるケースは思いのほかあります。それは大きく分けて「レベル感の不一致」、「漏れとダブり」、「飛躍と破綻」の3つがあります。
1. レベル感の不一致
コンサルタントの業界では、「その議論はレベル感が合ってないね」「言葉のレベル感を合わせてもらえるかな」といった言葉が日常茶飯事に飛び交っています。レベル感とは「抽象度」と捉えていただいて差支えないでしょう。
たとえばスポーツの人気について議論する際に「野球」「サッカー」「バスケットボール」という3つの競技を比較するのは違和感がないと思いますが、「草野球」「格闘技」「フィギュアスケート」のどれが一番人気か、という議論には違和感を覚えるのではないでしょうか。それはレベル感が統一されていないからに他なりません。なお、この例では抽象度を以下のように捉えることができます。
※以下、抽象度。左ほど抽象度が低く、右に行くほど高い。
草野球<野球<球技<スポーツ
極真空手<空手<格闘技<スポーツ
アイスダンス<フィギュアスケート<アイススケート<スポーツ
抽象度はバラバラですね。さすがにこの例ほど単純なら誰でも「おかしいな」と気が付くでしょうが、議論の中などでは案外、気が付きにくいものです。会議の中での会話の例を見てみましょう。
Aさん「この半年、商品Xの売上が下がってきています。なぜだと思いますか」
Bさん「商品Xが市場に占めるシェアは変わっていないので、市場が縮小しているようですね。市場全体を取り巻く構造的な要因がありそうですが……」
Cさん「パッケージのデザインが消費者から飽きられたのではないでしょうか。もう3年も変わっていないので」
Dさん「顧客のリピート率が下がっているのが問題ではないでしょうか。初めて購入した顧客の満足度を早急に上げることが課題だと思います」
この例では各々が言いたい放題意見を言っていますが、皆の議論のレベル感があまりにバラバラ過ぎるので、このままでは有意義な議論は難しいでしょう。市場全体のレベルか、商品のパッケージのレベルか、顧客の購買行動のレベルか、どのレベルで議論するかを先に意識併せした方がよいでしょう。なお、重要な要素を見落とさないように、基本的には抽象度が高いものから低いものへと順番に進めるのがよいでしょう。
2. 漏れとダブり
こちらは議論に必要な要素が漏れている、或いはダブりがあるという場合です。なお、英語で「互いにダブりがない」ことを"Mutually Exclusive"、"「全体として漏れがない」ことを"Collectively Exhaustive"ということから、漏れとダブりがないことを、これらの頭文字を取って"MECE"(ミーシーと呼びます)と呼びます。
漏れがある状態というのは、たとえば売上低下の要因を分析する際に「販売数量」にだけ注目して「単価」を見ないとか、販売数量の低下を深掘りする際に「市場全体に占める自社のシェア」にだけ注目して「市場全体の傾向」を見落とすといったことが当てはまります。
また、ダブりがある状態というのは、たとえば商品開発のターゲットとして「30代女性」と「ワーキングマザー」を設定するという場合(この場合は30代女性かつワーキングマザーがいるのでダブりになる)などがあります。
議論の中で、このような漏れやダブりを放置してしまうと後から手戻りが生じてしまったり、深刻な問題が起きてしまったりするので留意が必要です。また、「漏れやダブりが気になって内容が頭に入ってこない」ということも起こり得ます。
そこで、こうした漏れやダブりの発生を予防することが重要なのですが、そのためには図や表を描いて視覚的に確認することが一番です。それによって自分の考えを整理することができる上に、他の人との共通認識を醸成することもできます。
3. 飛躍と破綻
子どもならともかく、大人が集まって行う会議の議論で論理の飛躍や破綻なんてあるのかと首をかしげる人もいるでしょうが、意外と日常的に散見されます。論理の飛躍とは、ことわざの「風が吹けば桶屋が儲かる」のように、因果関係の繋がりが長過ぎたり、希薄過ぎたりしている場合を指します。
たとえば営業会議で「商品Aの市場シェアが下がってきているのは商品開発チームの士気の低下が原因だ」などと言われたとしてもピンのではないでしょうか。もし、このように因果関係の飛躍があったら「商品開発チームの士気の低下がどのように商品Aの市場シェアの低下に繋がっているのでしょうか」と質問して論理的な繋がりを確認しましょう。
次に論理の破綻についてですが、これは「論理的に誤っている」状態です。たとえば、以下のような主張です。
根拠1. 継続的な努力が必要とされることは成し遂げるのが難しい。
根拠2. 毎日散歩することには継続的な努力が求められない。
主張.ゆえに、毎日散歩することは難しくない。
この例では2つの根拠を挙げて主張をしていますが、根拠となる2つを基にした主張は論理的に誤っています。これは抽象化すると根拠1「AならばB」、根拠2「Aでない」、主張「ゆえにBでない」という論理構造になっていますが、これは論理的に正しくありません。まだピンと来ないという方のために、同じ論理構造を他の例に当てはめて考えてみましょう。
根拠1. 東京に住んでいる人は日本に住んでいる。
根拠2. 私は東京に住んでいない。
主張.ゆえに、私は日本に住んでいない。
先ほどと同じ論理構造で、根拠1と2を基にした主張が論理的に正しくないということがお分かりいただけたのではないでしょうか。
議論の論理的な破綻を放置したまま会議を進めてしまっては、そこで導いた結論も疑わしいものになってしまいます。もし、少しでも引っかかることがあれば論理破綻を見過ごさないためにも、すぐさま確認しましょう。
以上、見てきたように会議の場でも論理的な問題のために内容が頭に入ってこなかったり、結論を誤ってしまったりすることは多々あります。分からないことや怪しいことはスルーせずに確認するようにしましょう。