本連載の第153回では「ミスが起こるたびにチェックを増やしていませんか」と題し、ミスの発生都度、チェックを強化することの問題点をお伝えしました。今回は業務上どうしても避けられないミスにどのように向き合い、対応すべきか、という話をします。
何度言ってもミスがなくならない部下がいたり、自分自身がどうしてもミスを減らせなかったりと、仕事でミスに悩んでいるという人も少なくないでしょう。しかし、悩んでいても事態は好転しません。ミスにどう向き合い、対応するのか。その考え方をお伝えします。
まず大前提として「人間が行うことには必ずミスがつきものである」ということを理解しておく必要があります。そう言うと「いやいや、部署のエースのあの人がミスしたところは見たことも聞いたこともない」などと反論されるかもしれません。しかし「見たことがない、或いは聞いたことがない」からといって「全くない」と言い切ることはできません。全くミスがないように見える場合には、本当にミスが少ない場合を含めて以下の5つのパターンが考えられます。
- (1)「カムフラージュ」ミスが発生してもうまくごまかしているので周囲の人が認識できない。
- (2)「高速リカバリー」ミスが発生してもあっという間に挽回するので周囲の人に認識する時間を与えない。
- (3)「ライトなミス」ミスが極めて軽微なため周囲の人の記憶に残らない。
- (4)「逆転の発想」ミスの発生を逆手にチャンスに変えているのでミスとして認識されない。
- (5)「正確な作業」ミスの発生頻度が極めて低いため、まだミスを犯していない。
周囲がミスを見たことない、聞いたことがないという人について、本当にミスを犯していないパターンは(5)だけです。それも「まだ発生していない」というだけであり、今後もずっと継続できるかどうかは別問題です。
(1)~(4)のパターンはいずれもミスが起こっているものの、そのミスの性質や発生時の対応によって周囲が認識できていなかったり記憶に残らなかったりするものです。言うまでもなくミスの発生を抑えて(5)を目指すのが正攻法ではありますが、そうは言っても100%なくすことは困難なので状況に応じて(1)~(4)の手を使いこなすことは身に着けておいて損はないでしょう。
まずは(1)「カムフラージュ」についてです。ごまかすというと聞こえは悪いですが、全く深刻でない些末なミスがあったときに大ごとにならないように上手く取り繕うというのは全体最適の観点で考えると必ずしも悪いことではないでしょう。
たとえば社内の会議で使用する資料に少々の誤字や脱字があったからといって、それを大々的に謝罪したり周りがそれを厳しく糾弾したりするのは過剰な反応でしょう。気が付いたらすぐに「しれっと」直してしまえばそれで事足りるはずです。
その反対に軽微なミスにも関わらず発生したときに大騒ぎしてしまうと、周囲の人の過剰な反応を引き起こしてしまったり、「本当に些末なミスでも大ごとになってしまう」という過度なプレッシャーを周囲に与えてしまったりすることになるのでお勧めしません。
もっとも、ミスが起きてしまったことは確かなので完全になかったことにするのではなく、その場は上手く取り繕いながらも問題に発展しないようにフォローすることは必要でしょう。
次の(2)「高速リカバリー」について。これはミスが起こってもすぐに気が付いて対処するので問題に発展しないケースです。たとえば資料共有において最新の資料を共有フォルダの指定場所に置くべきところ、誤って古い資料を置いてしまったとします。その後すぐに気が付いて最新の資料と差し替えることで事なきを得る、といったことです。
これは「自分の作業には何らかのミスがあってもおかしくない」と常に意識し、「大事な作業の後には必ず結果を確認する」という習慣をつけることで、タイムリーにミスを発見して迅速に対応しようということです。ミスの発生を前提として問題に発展しないよう迅速に対応できるようにしておくことは有効な手の一つでしょう。
(3)「ライトなミス」は、これ自体が何らかの手というわけではありませんが強いて言えば「深刻なミスの予防に注力しつつも軽微なミスは許容することで、全体最適を図る」という考え方として捉えることができます。
冒頭でもお伝えしたとおりミスは必ず起こるものであり、それを全て防ごうとしても多大な労力がかかる割に効果はあまり期待できません。それよりは業務上、深刻な事態を招きかねないミスに限定して、その発生を抑止することに注力する方が業務品質と効率の2つの間でバランスの取れた対応と言えるでしょう。
(4)の「逆転の発想」は、いわばピンチをチャンスに変えるという極めて高度なテクニックです。たとえば自分がプレゼンを行う会議の直前に会議資料を誤って削除してしまった場合。もはや資料が間に合わないのは明白なので、その旨を参加者にお伝えした上で「本日はホワイトボードを使って説明します」と言って、さらさらとホワイトボードに図を描きながら参加者とインタラクティブにやり取りしていくことで、却って高評価を得られるということが考えられます。
もちろん、こうしたことが出来るのは非常に限られた事態においてであり、汎用性は決して高くはありませんが「もしかしたらこのミスをチャンスに変えられるのではないか」という視点を意識することで、いざというときに役立つかもしれません。
本来、ミスは起こらないに越したことはありません。しかし完全に避けることができない以上は、「発生したときにどのように対処すべきかと」いうことは考えておくべきではないでしょうか。本稿がそのための参考になれば幸いです。