本連載の第148回では「新入社員の視点に立って不安や疑問を解消しよう」と題し、新入社員の視点に立って、彼ら/彼女らの不満や疑問に正面から向き合うことの意義をお伝えしました。今回は社員の入社や異動などの変化を業務改善の好機として活かすための考え方をお話します。

4月は新卒社員や中途社員の入社、他部署からの異動、組織改編など多くの変化がある時期です。そのような変化の中にあっても業務の安定を維持するために尽力している人は少なくないでしょう。

その一方、今の時期はこれまで気が付かなかった業務上の課題を把握し、対処する絶好の機会と捉えることができます。そして、その機会は「客観視する機会」と「相対化する機会」という二つに分解して考えることができます。

業務を客観視する機会とは

突然ですが、スポーツはお好きでしょうか。大人になってからは全くやっていないという人でも、学生時代に部活や体育の授業などで何らかのスポーツを経験したことはあるでしょう。そのスポーツの世界の中でも大会で好成績を収めようとする熱心なチームでは必ずといっていいほどコーチがついています。その理由の一つには、選手の動きを客観的に見てフィードバックを与える役割があります。また、自分が出場した試合のビデオを観るのもシュートフォームなどの自身の動き方を客観的に確認する目的を含んでいることでしょう。

翻って業務において、自分自身の仕事を客観視できているでしょうか。長年同じ職務を続けていると、自分の仕事を客観的に振り返る機会がほとんどないという方も多いでしょう。それでも「トラブルが起きていないから何も問題がないのでは」という考え方もありますが、たとえ問題がなかったとしても、それが最善のやり方かどうかは別です。そして最善のやり方かどうかを判断するには自身の業務を客観視する必要があります。

そしてこの春に他部署、或いは社外から新しく入ってきた人たちに業務を教える必要があれば、それは業務を客観視するための良い機会と捉えることができます。既存のマニュアルを基に業務のやり方を教えたり、新しくマニュアルを作成したりするといった行動を通して自分たちの業務の目的や手順などを客観視することができます。

そして業務を客観視できれば、それだけでも業務の部署間での重複や手戻りの多さ、手順の過剰な煩雑さなどに気が付くきっかけになります。それは業務改善の第一歩になります。

業務を相対化する機会とは

マニュアルの作成や新入社員への説明などを通して業務を客観視することができたとしても、同じ仕事に長年携わっている人にとってはそれがあまりにも当たり前になっていて、改善機会に自ら気が付くことは難しいかもしれません。「この業務はそういうものだ」という常識に捉われすぎて、今の業務に課題があるかもしれないということは思いもよらないという人もいるでしょう。

そして、このようなことは誰にでも起こり得ます。たとえば「このエクセルファイルは何のために作っていますか」と営業部の課長に尋ねると、「それは社員の勤怠を管理するために作っています」と回答されたとします。しかし情報システム部に聞くと、勤怠データは3年前から各社員がスマートフォンから勤怠システムにアクセスして入力し、それが自動集計されるようになっている。そのため、本来であれば勤怠システム上で勤怠管理ができるはずですが、課長が自部署の社員の勤怠管理をエクセルファイルで行うのが長年の習慣として身についているので自分では無駄な作業と認識できない、といった具合です。

このような習慣や常識、思い込みをなくすことは容易ではありませんが、そのためのきっかけとして外部から入社によって、或いは他部署からの異動によって新しく来た人の意見が役に立つことがよくあります。外から来た人たちは部署の習慣や常識などに染まっていないので、「勤怠管理システムがあるのになぜエクセルのファイルで集計しているのか」といった疑問を抱くことは十分に考えられます。それはまさに業務を相対化して捉えていることに他なりません。なお、相対化とは「それが唯一絶対のものではないという見方をすること」です。

自分の業務そのものや業務手順などについて、これまで携わったことがない人から素朴に「その業務は何のためにやっているのか」とか「もっと効率的なやり方があるのではないか」などと指摘されて感情的に反発する人もいるかもしれませんが、それはあまりにも勿体ないことです。これまで自分では気が付かなかったことを、ある意味「外部の視点」から指摘してもらうことで自身の業務を相対化して捉え、「もっと良いやり方があるのではないか」と考えるきっかけにしましょう。

まとめると、入社や異動の多いこの時期は業務を「客観視する機会」と「相対化する機会」に恵まれたタイミングです。これを好機と捉え、自社や自部門の業務改善に活かしてもらえれば幸いです。