本連載の第147回では「新年度は言葉の使い方を見直して円滑なコミュニケーションを実現しよう」と題し、新しく職場に入ってきた人たちにも伝わるような言葉の使い方を意識しませんか、とお伝えしました。今回は新入社員の視点に立って、不平や不満、疑問に正面から答えることの意義についてお話します。
この春に入社したばかりの新入社員が自部署に配属されたという人もいらっしゃることと思います。中にはOJT形式で共に仕事をしながら教えるということもあるでしょう。言うまでもありませんが中途入社でなければなかなか「即戦力」というわけにはいかず、当面はサポートのために却って仕事が増えてしまうという場合すらあります。
そして手間をかけて教えながら徐々に仕事を振っていくことになると思いますが、当然ながら最初から重要な仕事を任せるのは難しく、複雑な判断を伴わない定型的な作業などを依頼することになります。このことは既に何年も仕事をしている人なら「当たり前」と捉える方が多いかと思いますが、これはあくまでも新入社員に「仕事を振る側の論理」である点に注意が必要です。
翻って「新入社員の視点」に立つと全く別の風景が見えてきます。やりたい仕事や、なりたい姿という希望を胸に入社した新入社員の多くは、暫くは入社面接などで聞いていた仕事とは違う仕事を任されることになります。それは自分が想像していたより地味であったり、単調であったり、何の意味があるのか分からないような仕事であることが少なくないでしょう。
そして、たとえ新入社員が心の内で「もっと面白い仕事をしたい」、「聞かされていた仕事と違う」、「この仕事に何の意味があるのか」などと思ったとしても、大半の人は空気を読んでぐっと堪えるのではないでしょうか。先達からすると、こうした考え自体が「甘い」とか「仕事というものを分かっていない」と一蹴してしまいたくなるかもしれませんが、それではやはり「仕事を振る側の論理」を押し付けているのに過ぎず、新入社員のメンタルやモチベーションを考慮した大人な対応とは言えません。
そこで、新入社員の不安や不満、疑問には面と向かって対応することが重要と考えます。「もっと面白い仕事をしたい」というのであれば、本人の考える「面白い仕事」とは何なのかを聞いた上で、やらせるかどうかを判断して理由と共に伝えたらよいでしょう。その際には「スキルのレベル」や「責任の大きさ」、「関与する部署の多さ」などの客観的な判断軸を示して納得感のある説明をするとよいでしょう。
「聞かされていた仕事と違う」ということであれば、こちらも「聞かされていた仕事とは何か」を明らかにした上で、その仕事を今すぐに任せることができないのであれば先ほどと同様に理由を説明することが大事です。その上で、「ではどのような経験を積めば任せてもらえるようになるのか」とか「何ができるようになればその仕事に携われるのか」といった道筋を示すことが大事と考えます。なぜならそれによって、自分がやりたかった仕事を任せてもらえそうな時期や条件がある程度分かることで安心できるからです。また、今の仕事がそこにどう繋がっているかが分かれば目の前の仕事の意義が腹落ちしてモチベーションが上がる効果も期待できます。
そして「この仕事に何の意味があるのか」という問いに対しては、その真意によって異なる2つの対応の仕方があります。この言葉の真意が「自分のキャリアにとって何の意味があるのか」ということであった場合には、きちんと目の前の仕事を完遂させることができて初めて次のステップに上がることが出来る旨、伝えることが必要でしょう。
一方、この言葉の真意が「この仕事が会社のビジネス全体の中で何の意味があるのか」ということであったなら、会社全体もしくは取引先を含めたビジネスの全体像を示した上で、その仕事がどのような価値を生んでいるのか、誰のためになっているかなどを丁寧に説明するのがよいでしょう。
ただし、仮にそのような説明ができないということであれば、その仕事が本当は不要なものかもしれないので早急に見直すべきと考えます。むしろ業界や会社の常識が染みついていない新入社員からの率直な意見や疑問というのは、自社の商品やサービス、業務、慣例などの改善に繋がる可能性があるかもしれません。
既に社会人としての経験を積んでいる先達として、新入社員の不安や不満、疑問を「仕事とはそういうものだから」と無下に扱うのではなく、一人の社会人として正面から向き合って納得できる説明を心がけることが重要です。それによって相手のモチベーションが上がって成果を出してくれればお互いにとって良好な結果を得られるのではないでしょうか。