本連載の第144回では「意思決定や行動との繋がりを意識してメタボ思考をスリム化しよう」と題し、「意思決定」と「行動」との兼ね合いから余分な思考をそぎ落とす方法をお伝えしました。今回も引き続きメタボ化した思考に着目し、「思考の可視化」によるスリム化についてお話します。
会議をしていて、議論が込み入ってきたときにふと「あれ、さっきも同じ議論をしたような……」と感じることはありませんか。特に議論の内容が複雑であったり、長丁場になったりすると同じ話を繰り返す頻度が高くなると考えられます。
また、複雑な問題について一人であれこれと考えているときにも、問題の分析や解決策を導くために筋道を立てて思案しているはずなのにやはり、同じことを考えていたことに気が付くということが一度や二度はあるのではないでしょうか。
このように同じことを同じように議論したり考えたりするというのは、道に迷って同じ場所をただグルグルと彷徨っているようなものです。そのため余分な思考、言い換えればメタボ思考と呼んでも差し支えないでしょう。
ではなぜ、同じ議論や思考が繰り返されてしまうのでしょうか。それには「目的」と「複雑性」に関する要因が考えられます。最初の「目的」に関しては、そもそも議論や思考の目的を見失っている場合を想定します。今会議で話し合っていること、一人で考えていることの先に何を見据えているのか、何のために考えているのか、ということがいつの間にか分からなくなっている、曖昧になっている、という場合には議論や思考が堂々巡りになってしまいます。どこかに出かける際、当初は明確に目的地があったのに寄り道している間に「あれ、どこに向かっていたのだっけ」と目的地を見失ってしまうようなものです。
議論が白熱したり思考が込み入ってきたりすると「そもそも何のために考えているのか」というのを忘れてしまうものです。目的を見失うと議論や思考が明確な方向性を失い、彷徨ってしまうというわけです。
次の「複雑性」に関するものですが、これはさらに2つのパターンに分解できます。1つ目は議論や思考の対象が、考える要素が多かったり論理が入り組んでいたりして文字通り複雑な状態であるという場合です。もう1つは本来複雑ではないはずの対象なのにわざわざ複雑に考えているという場合です。前者の場合は一度に多くのことを考慮しなければならないため、気が付いた時には堂々巡りになっているということが考えられます。難解な迷路を進んでいるようなものですね。後者の場合については本来シンプルなはずの事柄について、色々と気になって本質とはかけ離れた要素を混ぜ込んでしまったがために複雑化してしまうというケースです。ついつい、些末なことが気になってしまい思考が散らかってしまうということですね。
同じ議論や思考が延々と繰り返される理由はここまで述べてきたとおりですが、ではどうしたらよいのでしょうか。それには「思考の可視化」が有効です。議論していること、考えていることを目に見える形に可視化するのです。その際、もちろん文章にするのも有効ではありますが、できれば図に表した方が全体の構造を一目でわかるのでお勧めです。
また、図示すると議論や思考の漏れや重複にも気が付きやすくなります。そして何より、既に話したこと、考えたことが既に図に残されているため、全く同じことについて議論したり思考したりするムダはまず発生しなくなります。
このような話をすると、「自分は絵心がなくて」とか「デザインのセンスが皆無なので」といって最初から諦めてしまう人がいますが、議論や思考を図に表すことに絵心やデザインのセンスは全く必要ありません。基本的には四角形と線を組み合わせるだけで十分です。やり方が分からないという方は、Amazonなどで「図解思考」と検索すると多くの書籍が出てくるので、それらを参考にするとよいでしょう。
なお、本稿の内容について図解したので「思考の可視化」がどのようなものか、そのイメージを掴んでいただければ幸いです。