本連載の第143回では「メタボ化した思考をスリム化しよう」と題し、「どのように考えるか」ではなく「何を考えるか」に焦点を当てて、2つの観点からメタボ化した思考の弊害をお伝えしました。今回もメタボ化した思考に照準を当てて、思考をスリム化する方法についてお話します。
「ロジカルシンキング」や「クリティカルシンキング」といった用語を聞いたことがあるという方は多いのではないでしょうか。このような物事の考え方についてはインターネット上や書籍、雑誌などでも多数、紹介・説明されています。また、巷ではビジネススクールでの講座を始め、研修サービスが充実しているので本格的に学びたいという方にとっては選択肢が豊富にあります。
これらの考え方はビジネスのみならずプライベートでも有用な上、読み書きや四則演算などと同様に一生使えるスキルですし、一度身に着けたらまず失うことがない上、職種を問わず役に立つので大変人気があります。
その一方で「何を考えるべきか」、言い換えると「考える必要がないことは何か」ということについての情報を目にすることは相対的に少ないように思います。そこで、以下では特に職場での問題解決を念頭に「考える必要がないこと」を認識し、思考をスリム化するための方法を「意思決定と行動」との関連で説明します。
自分や関係者の重要な意思決定や行動に影響を及ぼさない問題
問題として捉えて意思決定や行動をしてもしなくても、結果的に何も変わらないことをあれこれ考えても意味がありません。もちろん当の本人はそのことに気が付いていないことが多いのですが、意外と見かけるパターンです。
たとえば既に10億円の費用と2年の期間をかけて自社の基幹システムを構築している最中に偶然、そのシステムの設計に致命的な欠陥が見つかり、その解決には追加で10億円の費用と2年間の月日を要することが分かったとします。
その際、「致命的な欠陥があるシステムの導入を決めた人物は誰か? どう責任を取らせるか?」ということを考えても、既に費やした10億円というお金も2年間という時間も返ってくることはありません。まして、致命的な欠陥についてはあくまでも後から偶然分かったことで、事前に知り得なかったのだとしたら導入を決定した人物を責めても意味がありません。
この場合にまず考えるべきなのは「設計に致命的な欠陥が見つかった今、この基幹システムの開発を継続すべきか否か?継続するなら費用と期間を最低限に抑えるためにどうしたらよいか?」といった「これからのこと」のはずです。それは「責任者の特定と追及」より遥かに重要なことであり、「誰が責任者か」によって意思決定が変わるというものでもないはずです。
このように本来重要な意思決定があるにも関わらず、それとは無関係なことを問題として捉えて考えるということは余分でしかありません。問題が発生した際、感情的に誰かを責めたくなる気持ちは抑えて「今または今後、自分や関係者が意思決定すべきことや行動に影響を及ぼす問題」に焦点を絞って思考をスリム化しましょう。
自分や関係者の意思決定や行動では絶対にどうにもならない問題
ご存知の通り、今まさにロシアによるウクライナへの侵攻が世界を揺さぶっています。それによって原油や天然ガス、レアメタルなどの資源の高騰と、その帰結としてのインフレが懸念されています。しかし、「国内のインフレ」や「資源の高騰」、或いはその主要な原因の一つとしての「ロシアによるウクライナ侵攻」を問題として捉えてどうにかしようと考えたところで、一企業レベルで解決できるほど問題は小さくありません。
これはもちろん、そういったことが「重要ではない」という話ではなく、ましてロシアの暴挙が許されないことは言うまでもありません。その上で、一企業にできること、やるべきことにフォーカスして対応すべきということです。
今回のような戦争に加え、大地震や大型台風、大寒波などの自然の驚異、或いは少子高齢化といった人口動態、AIやブロックチェーンなどの技術革新、法改正といった世の中の大きな動きは、たとえそれが自社に対して脅威となることが予想されたとしても、そのこと自体を問題と捉えても一企業や個人の手でどうにかできるレベルではないでしょう。
そのため、少なくとも個人レベルや一企業レベルでは、このような事象を「問題」と捉えて解決しようと考えるのはあまり意味がありません。それよりは「問題」ではなく「前提」として捉え、その上で自社に与えるマイナスの影響を如何に最小限に抑えるか、もしくはマイナスの影響をプラスに転換するか、といったことを考えた方がよほど建設的です。これもまた、思考のスリム化を実現する効果的な方法です。
以上、本稿では意思決定や行動との関連から、メタボ思考をスリム化するための方法をお伝えしました。ビジネスの場では自分自身や関係者の意思決定や行動に影響を与えない問題や、意思決定や行動では絶対にどうにもならないことを問題と捉えるのではなく、その分の時間と思考力を自分の意思決定や行動に繋がることに配分しましょう。