本連載の第136回では「自分の『弱み』を克服せずに対処する方法」と題し、弱みと上手に付き合う方法をお伝えしました。今回は一見すると強みに見えないような特性でも、工夫によって強みとして仕事で活かすことができる、というお話をします。

「私の強みは背が高いことです」

前に勤めていたコンサルティング会社の上司がこんなことを話しました。その時は一体どういうことなのかと思いましたが、上司曰く、背が高いことによって威厳が生まれ、話している相手に「この人の話はちゃんと聞かなければならない」と思わせる効果があるということでした。その真偽のほどは分かりませんが、確かに上司は背が高くて威圧感があり、話を聞かなければという雰囲気を醸し出していたように感じます。

高身長の上司とは逆に、私は小柄です。「背が高いこと」が強みなら、その反対の「背が低いこと」は弱みなのでしょうか。確かに威厳や威圧感を利用しようとするのであれば、小柄であることは不利に働くことになるかもしれません。しかし困ったもので、まだ子どもであれば身長が伸びる可能性もありますが、大人になった今は全く期待できません。

そこで、逆に「小柄であることを強みとして捉えたらどうか」と考えてみました。そうすると、「威厳はないが親しみやすさがある」「威圧感はないが警戒されにくい」といった点を強みとして活かせるのでは、と気が付きました。その後、仕事では常にこれらの強みを活かしています。小柄なので警戒心を抱かれにくく、相手に本音で話してもらいやすいというのは今の自分にとって大きなアドバンテージになっています。

続いて、営業の例で考えてみましょう。一般的に「できる営業は話し上手」というイメージがあるのではないでしょうか。「話し上手」であることが営業にとって強みであるというのは納得感があります。それでは「話し下手」は弱みなのでしょうか。営業にとっては「話し下手」であることは致命的だと捉える人もいるでしょうが、実際にはそうとも限らないようです。

口数が少ない営業は「話し下手」なので、自ずと自分ではなく相手の話を聞く時間が長くなります。それによって「この人はよく話を聞いてくれる人だ」とか「信頼できそうだ」という印象を相手に与えることができます。それが上手くいけば「話し下手」であることは営業にとって弱みどころか強みにすらなり得るということです。

このように、一見すると弱みに見えるような特性でも強みに転嫁することがあるのです。大人が身長を伸ばすことは無理ですし、話し下手な人が饒舌になるのも不可能とまではいきませんがなかなか難しいでしょう。むしろ、「自分の特性をどうやって活かすか」と考えた方がよほど生産的です。以下では、自分の特性を活かすためのポイントを2つお伝えします。

1. 自分の特性を客観的に評価する

何を強みにするにしても、そもそも自分の特性を認識していなければどうしようもありません。しかし、往々にして自分が認識している特性は他人から見た特性とズレているものです。例えば自分自身では「ポジティブである」と思っていても、多くの同僚からは「ネガティブな人だ」と捉えられているということもしばしばあります。

そこで、同僚や友人などに、自分がどういう人間なのかを尋ねてみるとよいでしょう。意外な特性が明らかになるかもしれないですし、納得がいかないということもあるかもしれませんが、そこは一旦、素直に受け止めるのがよいでしょう。

また、人に聞くのがためらわれるという方にはWeb上で受けられる特性診断がお勧めです。一例として、アメリカの世論調査会社のギャラップ社が提供しているストレングス・ファインダーという診断ツールがあるので、一度サイトを見てみてはいかがでしょうか。

2. 常識や理想像を疑う

自分の特性が分かったら、それを仕事にどう活かすかを考えます。その際に「営業は話し上手でなければならない」とか「経理はかくあるべし」といった常識を疑うことが大事です。そのような凝り固まった常識や理想像に自分の特性をどう当てはめるかを考えようとしても無理があります。それでは結局はこれまでと何も変わらないでしょう。

そうではなく、一旦は常識や理想像といったものは忘れて「自分の特性をどのように仕事に活かすのか」という一点に集中して考えるのです。たとえば自分が人事部所属の採用担当者だったとしたら、「学生の素質を見抜ける高い洞察力」を持っている人が理想像だと考えるかもしれません。しかし、もし自分の特性上、洞察力どころか人とのコミュニケーションすら苦手な部類に入るようであれば、この理想像に自分を近づけようとするのは得策ではありません。

その代わり、もし自分が「事実を客観的に分析する」という特性を持っていたら、それを活かして入社志望者のデータを分析して、そこから活躍できそうな人を定量的・客観的に見極めることができるかもしれません。それによって優秀な採用担当者として周囲から認められる可能性は大いにあります。

ここまで見てきたように、そもそも「強み」とか「弱み」というのはあくまでも状況次第、使い方次第で変わるものです。重要なことは、自分の特性を客観的に把握した上で、それをどう活用するかを常識に捉われずに考えることです。ぜひ、ご自身の特性を把握し、強みに活用する方法を考えてみてください。