本連載の第134回では「新しい試みに否定的な意見を推進力に変える切り返し方とは」と題し、否定的な意見を聞いたときに、むしろそれを前向きな力に変えるための切り返し方についてお伝えしました。今回はテーマを大きく変えて、働く上での強みの考え方をお話します。
就職活動中の学生であれば、面接官から「あなたの強みは何ですか」という問いを投げかけられたことが一度はあるのではないでしょうか。また、併せて「あなたの弱みは何ですか」という問いもしばしば聞かれることでしょう。
しかし、ひとたび就職してしまえばこのような問いかけをされる機会はあまりないという方が多いかと思います。そこで、新年のこのタイミングで一度、強みについて一緒に考えてみましょう。
そもそも、強みとは何なのでしょうか。ビジネスパーソンであれば、「プレゼンが上手」とか「交渉力がある」、或いは「集計や分析が得意」などが挙げられるかと思います。弱みであれば「話しベタである」、「空気を読めない」、「うっかりミスが多い」などでしょうか。もちろん、強みも弱みも、ここに挙げたものだけではなく無数に存在するでしょう。それではここで質問です。
「あなたの強みは何ですか」
「自分には強みなんか何もない」という人もいるかもしれませんが、子どもの頃に得意だったこと、好きだったこと、やっていて苦にならなかったようなことでも構わないので挙げてみてください。それはきっとあなたの強みに関連するものです。
それでもまだ「こんなことは誰でもできる」とか「他にもっと得意な人がいるから、強みとして挙げるのはおこがましい」などと考える謙虚な方は少なくないでしょう。しかし、本当にそうでしょうか。この2つの根拠について掘り下げて考えてみましょう。
1. 「こんなことは誰でもできる」は妥当か
たとえばあなたが営業事務で、普段からExcelを駆使して見積書の作成や営業パーソンごとの売上の集計、分析、営業会議の資料作成などに携わっていたとします。きっと「データの集計・分析」や「集計・分析結果を基にした報告資料作成」などのスキルは相当なものでしょう。でも「それはあなたの強みですか」と聞くと、同僚もみんなやっているので「こんなことは誰でもできますよ」と回答されるのではないかと思います。
しかし、本当に誰でもできるのでしょうか。
普段から接している営業パーソンや他の部署の人に自分の仕事内容を説明して、同じスピードで同じ質で作業を完遂できるか聞いてみてください。きっと「とてもそんなことは無理です」という返事が返ってくるのではないでしょうか。あなたが「誰でもできる」と思っていることの多くは、実は「多くの人ができない」ことなのです。それを強みと呼ばずして何と呼ぶのでしょうか。
2. 「他にもっと得意な人がいるから、強みとして挙げるのはおこがましい」は妥当か
さすがに誰でもできるというわけではないけれど、世の中にもっと得意な人がいるから自分の強みとして挙げるのは気が引ける、ということを言う人もよくいます。
ではここで、あなたがご自身の職場で最も尊敬する人を思い浮かべてみてください。次に、その人の強みを挙げてみてください。恐らく自分の強みより沢山挙げられたのではないでしょうか。
それでは今度は職場という枠を取り払って考えてみましょう。その方の強みに関して世界を見渡したときに、より秀でている人はいますか。
恐らく大半の方は「いる」と答えたと思います。そうであれば、「他にもっと得意な人がいるから、尊敬する人の強みとして自分が挙げたものは、実は強みではない」ということになるのでしょうか。もしその論理を正とするならば、その分野で世界チャンピオンにならない限り強みとして認識できないということになってしまいます。
そう考えると、「他にもっと得意な人がいるかどうか」をご自身の強みの認定基準に据えるのは無理があるということになります。
「あなたの強みは何ですか」と聞かれて一瞬、頭によぎったものの候補から外してしまったものについて、もしこれら2つの根拠の内どちらかがその理由になったのであれば、大変もったいないことです。
そもそも強みとか弱みというものは唯一絶対のものではありません。それどころか、一般的には強みとして認識されるようなことでも環境や状況次第では弱みになってしまうということすらあります。
それを踏まえると、他の人の比較ではなく自分自身の中で得意なこと、好きなこと、やっていて飽きないことなどを基に「何を強みとするのか」を決めて、それをどのように仕事に活かすのかを考えるのが得策でしょう。次回は強みに加えて弱みにも着目し、それらをどう扱えばよいのかについてお話します。