本連載の第128回では「会議をスリム化するための3つの問い」と題し、会議そのものの意義、時間、人数をゼロベースで見直すための問いをお伝えしました。今回は会議における議論の質を上げるのにも使える「論点」についてお話します。

「議論が盛り上がっているのはいいんだけど、なんかズレてる気がする……」

会議でこのような違和感を覚えたことはありませんか。しかしせっかく盛り上がっているところに水を差すのはどうも、とためらっている内にタイムアップして結論は次回に持ち越し。うまくいかなかったのは、もしかすると結論に至らなかったのは論点のズレが原因だったかもしれません。

では、そもそも論点とは何でしょうか。辞書で調べてみると「議論の中心となる問題点」と出てきますが、コンサルタントの世界では「解くべき問い」と捉えることが多いので、ここでもその意味で使用します。これを踏まえると「論点がズレている」というのは「解くべき問いがズレている」ということになります。これは一体どういうことでしょうか。

「商品Aの売上が落ちている。売上を上げるにはどうしたらよいか」

営業担当者たちがこのような問題について話しているのは見慣れた風景でしょう。しかし、この話をする以前に、このテーマがそもそも「論点」として相応しいかどうかについてよく考えることが大事です。

このように話すと「いやいや、売上が落ちているなんて明らかに問題だから、上げるためにどうするか考えるのは当然だろう」と反射的に意見をぶつけてくる人がいます。しかし、本当にそれでよいのでしょうか。一見すると「解くべき問い」に見えるけれど、実はそうではないということは珍しくはありません。それを以下2つのケースで見てみましょう。

ケース1.商品Aの売上の減少幅が予測の範囲内に収まっている場合

売上の増減に規則性が見られる商品の場合、その規則性で説明がつく範囲内の売上減少幅であれば、それを問題視するのは無駄かもしれません。例えば常識的には、ビールの売上は気温の高さと相関関係にあると考えられます。気温が上がれば売上が増えて、気温が下がれば売上が減るということです。気温が下がったことでビールの売上が減少したのにも関わらず、「ビールの売上が下がった」という現象だけを見て論点を設定して話し合ったところで徒労に終わるはずです。

但し、これを「気温の上下に関わらず、一定量のビールの売上を確保するには何が必要か」と論点を設定すると、新たなビジネスチャンスが生まれるかもしれないのを付け加えておきます。

ケース2.商品Aの売上減少率と市場規模の縮小率が同じ場合

ライフスタイルの変化や代替製品の台頭などによって、商品Aの属する市場の規模が縮小してしまうという場合を考えてみます。その市場の縮小ペースが商品Aの売上減少ペースと変わらないのであれば、「商品Aの売上を上げるにはどうしたらよいか」という論点を議論することはナンセンスかもしれません。

かつて、スマートフォンの登場・普及によってガラケーはたった数年で駆逐されました。その渦中にあって、営業会議で「うちのガラケーの売上が下がってきている。売上を上げるために何をすべきか。」という論点を立てて議論したらどうなるでしょうか。そもそも電話機のスマートフォンへの切り替えが進むのに伴い市場が縮小している中で、自社のガラケーの売上を伸ばすことが現実的かは怪しいものです。

このケースにおいては、たとえばガラケーの売上減少を「問題」ではなく「前提」として捉えて、「ガラケーに替わる収益の柱を何にするか」とか「スマートフォンの普及によって収益を増やせるビジネスモデルは何か」といった論点を設定した方が遥かに有意義でしょう。

以上2つのケースを通して、論点として当然かのように思えることであっても改めて考えることの重要性をご理解いただけたかと思います。論点がズレたまま問題解決に取り組んだ場合、問題解決のプロセスでどれだけ知恵を絞っても、労力を費やしても徒労に終わってしまいますし、むしろ事態を深刻化してしまうかもしれません。

学校のテストでは与えられた問題を如何に「正確に素早く解くか」が問われますが、実社会では最初から論点が明らかになっているケースは稀でしょう。そのため、まずは解くべき問いは何か、即ち「論点は何だろうか」と常に自問自答する姿勢が不可欠です。ご自身の日々の仕事においても論点そのものについて考える癖をつけて頂けたら幸いです。