本連載の第124回では「複雑なことは図解思考で考えを整理しよう」と題し、考えをまとめるのに図解思考が役に立つというお話をお伝えしました。今回もビジネスで役立つ思考系の流れを引き継ぎ、クリティカル・シンキングについてお話します。
「クリティカル・シンキング」という言葉を聞いたことがあるという方は少なくないでしょう。日本語では「批判的思考」と訳されるので、他人の揚げ足取りをするような意地の悪いイメージを思い浮かべてしまっている人もいるかもしれません。
しかし、クリティカル・シンキングとは本来「物事を批判的に捉える考え方」のことです。もう少し丁寧な言い方をすると「物事の真偽や情報を鵜呑みにせず、よく吟味する考え方」であって、決して意地の悪い考え方というわけではありません。それどころか、情報化社会の今を賢く生きるために絶対に身に着けておくべきスキルと言っても差し支えないでしょう。以下では現代においてクリティカル・シンキングが必要な理由を2つお伝えします。
1. 多様性に富む世界で円滑なコミュニケーションを取るため
今の時代は社会に多様性が求められており、ビジネスの世界でも年齢、性別、人種、国籍などに捉われずに様々な人が共に生きていくという傾向が続いています。企業においては終身雇用を前提としなくなり、中途入社や転職は当たり前、独立や副業という選択肢も珍しくなくなりました。さらにコロナ禍に伴ってテレワークが推進されたことで、働き方についても出社する人としない人が混在するという状況まで生まれました。
このような変化が起きる前であれば、共通の価値観や常識を備えた仲間とのやり取りが中心であったために自分の考えを言葉として明確に表現しなくても、なんとなく仕事仲間に伝わったかもしれません。そうしたコミュニケーションは属性が自分と近い上に同じ場所で同じ仕事をして同じような経験をしてきた仲だからこそ成り立ったのではないでしょうか。
しかし、職場で働く人の多様性が増していくに従って考え方や感じ方、価値観の違いが無視できないものになってきています。そのため以前のように考えや意見を「なんとなく」伝えようとしても正確に伝わらなかったり、意図を汲みとってもらえずトラブルに発展したりすることが増えてしまうかもしれません。
それを踏まえると、人に話をする際には一度立ち止まって「自分の考えには過度な偏りがないだろうか」「意見と事実の線引きができているだろうか」「相手に誤解を招く表現になっていないだろうか」などと、自らの考えを客観的に批判することが重要になります。それこそがクリティカル・シンキングです。
もちろん四六時中、自分の考えを批判的に捉え直すのは非現実的ですが、日々のコミュニケーションにおいてクリティカル・シンキングの姿勢を意識することは、多様性に富む世界で円滑なコミュニケーションを取るのに効果的でしょう。
2. フェイクニュースやデマに騙されないようにするため
インターネットやスマートフォン、SNSや動画投稿サイトなどが普及している現状においては、誰もが手軽に情報発信できます。それによって便利になった反面、私たちは真偽の不明な怪しい情報に常に晒されていると言っても過言ではないでしょう。それはフェイクニュース、根拠のない情報、極端に偏った意見、フィッシング詐欺など、手を変え品を変え私たちのところに届きます。
そのため、まずは自分自身が怪しい情報に騙されないように細心の注意を払わなければなりません。それには記事や動画、人のうわさ話などで得た情報をそのまま鵜呑みにしないことが肝要です。特に「友人の医者がこう言っている」「知り合いの大学教授がこう言っている」といった人の権威を使った主張、「とある研究結果でこういう結果が出ている」「この論文にはこう書いてある」といった科学的に正しいように見せかけた主張などに対しては反射的に信じてしまう人がいますが、それは危険です。
それに加えて、最近では科学技術の進歩に伴い、ディープフェイクという技術を使って「ある人が喋っているように見せかける」動画が拡散されて問題になるというケースまで出てきています。こうしたケースで自分が騙されてしまうと、「よかれと思って」偽情報の拡散に加担してしまうことにもなりかねません。
だからこそ、まずは自分自身の判断を拙速にせずに情報の根拠や主張の論理的な正しさなどを検証する、クリティカル・シンキングが必要なのです。
本稿では、今の社会でクリティカル・シンキングが必要な理由についてお話しました。次回はクリティカル・シンキングをどのように行うのかについてお伝えしますので、ぜひご覧ください。