本連載の第119回では「本気でデジタル化を目指すなら、フルリモートワークでも回る仕組みにしよう」と題し、フルリモートワークでも業務が回る仕組みを目指すことでデジタル化を徹底的に進めてはどうか、とお話しました。今回はデジタル化を業務スピード向上に繋げるために考えるべきことをお伝えします。

9月21日の日本経済新聞に「DXとデジタル化の違い 『説明できない』管理職が7割」という見出しの記事が掲載されました。当該記事では、DXは「IT(情報技術)を利用して製品やサービス、ビジネスモデルやビジネスプロセス、さらには組織や業界構造を刷新する取り組みを指す」とあります。一方、デジタル化は「既存の仕組みや設備をデジタルに置き換えることを指し、主に業務の効率化を目的とする」ということです。

この定義によると、デジタル化は既存の仕組みを維持しながらデジタル化することで、DXはITを使って既存の仕組み自体を変えてしまうということなので、デジタル化より広範囲かつ複雑な取組みになります。

今まさにDXの重要性が叫ばれてはいますが、DXどころかデジタル化すらおぼつかないという企業が日本にはまだたくさん残されています。そのような企業で最初からDXをやろうとしても、なかなか一足飛びにはいかないでしょう。そのため、まずはデジタル化による業務効率化に取り組むことが先決ではないかと考えます。

ではデジタル化による業務効率化はどのように進めればよいのでしょうか。ここでは効率化による「業務スピードの向上」に焦点を絞って考えてみましょう。その際、業務スピードとは何かを定義する必要がありますが、ここではリードタイム(業務の最初の工程開始から最後の工程終了までの時間)を指標として用いることとします。例えば受注から納品までのリードタイムや、製造開始から完了までのリードタイムなど、様々なリードタイムが考えられます。

ではリードタイムを短くする(=業務スピードを上げる)にはどうすればよいのでしょうか。それには正味作業時間の短縮と、待ち時間の短縮の2つがあります。1つ目の正味作業時間とは実際に作業をしている時間のことで、情報収集の時間や資料作成に取り掛かっている時間などです。2つ目の待ち時間は該当業務に関わる作業をしていない時間です。

正味作業時間を短縮するには

では正味作業時間を短縮するには何をすればよいのでしょうか。それには大まかに分けて2つのアプローチがあります。1つは「ムダな作業をなくす」ことで、もう1つは「作業の速度を上げる」ことです。

「ムダな作業をなくす」というのは、例えば資料作成であれば、その資料の目的に合致しないページを特定して削除するとか、部署内で資料を共有してページ単位で使いまわすことで作成作業そのものを減らすことなどが考えられます。これにデジタル化を絡めるのであれば、クラウドのストレージに資料をアップロードして、チャットツールで共有した旨の情報を随時発信したり、「こんな資料はありませんか」と質問できるような仕組みを作ったりすることなどが打ち手としてあります。

また、「作業の速度を上げる」については、資料作成の作業であればタイピングの速度を上げたり、ショートカットキーを覚えたり、作業を自動化するといったことが有効です。なお自動化についてはエクセルであればピボットテーブルや関数、マクロといったツールを駆使することで様々な作業を自動化できますし、データベースであればアクセスのクエリなどを用いて必要なデータを自動で抽出できたりします。もちろん、最近流行っているRPA(Robotics Process Automation)も自動化のツールとして有用です。

待ち時間を短縮するには

続いて待ち時間の短縮についても考えてみましょう。こちらについては「待ち時間なんてないよ」という声も聞こえてきそうですが、本当にないのでしょうか。例えば作業結果を第三者に確認してもらっている間の時間や、作成した資料を上司に承認してもらうまでの時間、或いは他部署に送付して追記してもらうまでの時間や返信が届くまでの時間など、これらは全てリードタイムを構成する待ち時間です。

そして、この待ち時間が業務によっては数時間、或いは数日かかってしまうケースもよく見かけます。こうしたケースでは、せっかく自動化などで正味作業時間を仮に30分短縮できたとしてもリードタイム全体から見たら誤差のレベルでの改善にしかなりません。そのため正味作業時間以上に待ち時間の短縮にも注力することをお勧めします。

では、待ち時間を短縮するにはどうすればよいのでしょうか。作業結果の確認待ちや承認待ちであれば、そもそもその確認や承認が本当に必要かどうかを問うところから始めるべきです。単なる慣習としてやっているだけであれば廃止することによって、その待ち時間は丸ごと消滅します。

そして検討の結果、確認や承認などがどうしても必要だということであれば、その待ち時間を短縮するために資料の提出時にシステムから承認者に自動で通知が届く仕組みを導入したり、承認者が不在の場合には代理承認できるようプロセスを見直したりすることが有効です。

以上見てきたとおり、業務スピードを上げるには単に業務をデジタル化すればよいという単純な話ではなく、リードタイムを構成する要素としての正味作業時間と待ち時間がどれだけかかっているのかを分析し、それらをどうやって短縮できるか、その施策をデジタル化も含めて考える必要があります。本稿の内容が職場の業務スピード向上にご参考になれば幸いです。