本連載の第116回では「デジタル化で効率が下がる作業もある」と題し、盲目的にデジタル化を進めることによる弊害についてお話をしました。今回はデジタル化を進められる職場とそうでない職場の違いについてお伝えします。

先日、ついに日本にデジタル庁が発足しました。世界のデジタルランキングで27位と遅れを取っている日本。いまだに紙が主体の行政サービスの手続や自治体ごとにバラバラなシステムなど、様々な問題に対処して頂けるよう期待せずにはいられません。

その一方で、多くの企業でもDX(デジタルトランスフォーメーション)の名のもとにデジタル化の取り組みを進めています。しかし、既にデジタル化が完了している職場もあれば、鋭意取り組み中の職場もあり、さらには現在検討中という職場もまだまだ多いようです。

では、デジタル化を素早く進められる職場とそうでない職場はいったい何が異なるのでしょうか。ここでは「完璧主義」「細則主義」という2つのキーワードを基に違いを考察します。

完璧主義の職場はデジタル化で後れを取る

デジタル化するということは少なからず業務のやり方が変わることを意味します。それまでは印刷して紙で扱っていた帳票をなくしてシステムへの入力だけで済ませたり、取引先にFAXで送っていた資料をクラウドのデータ共有サービスで代替したり、紙の資料に手書きで行っていたメモの代わりにデータ上でコメントを残したりと、様々な業務のやり方が大きく変わります。

慣れ親しんだやり方が変わるわけですから、業務をデジタル化した直後には不慣れな手順のため一時的には生産性が落ちたり、ミスの発生件数が増加したりすることが想定されます。もちろん、そうならないように事前にデジタル化に伴うリスクを評価し、予防のための手を打つことは重要です。とはいえ最初から不都合が全く生じない完璧なものを仕上げようとするといつまで経ってもデジタル化の実現に至りません。

どれだけ入念に準備していても、いざ実際に業務をデジタル化すると想定外の問題は出るものです。現実世界は変数が多すぎて、事前に完璧なシミュレーションを行うことはほぼ不可能だからです。

そのため、ある程度のリスクは許容してデジタル化を進め、問題が発生したら素早く検知して改善するというアプローチを取る方が現実的で、かつ素早く取組みを進められます。

なお、素早くデジタル化を進められるということは、その恩恵をより多く受けられるということでもあります。それは裏を返すと、最初から完璧なものを求めてしまうとデジタル化が遅れ、本来受けられたはずの恩恵をみすみす逃してしまうということに他なりません。

まずはやってみて、問題が生じたら素早く修正するというクイックなPDCAを回しましょう。

細則主義の職場はデジタル化に不利

そもそも細則主義とは何かということですが、具体的な細かいルールを設け、それを守ることが求める規範を言います。反意語は原則主義で、原理原則を守ってさえいれば具体的な行動は自由、という規範です。

では細則主義がデジタル化に不利とはどういうことでしょうか。それには2つの理由があります。1つ目は、デジタル化に移行する際に細則主義が邪魔をするということです。業務を規定する細かいルールが無数にあり、それを厳格に守らなければならないことが前提だと、デジタル化によってそのルールから逸脱しないかを1つ1つチェックしなければなりません。

そしてルールに合わない箇所が見つかると、ルールに合わせるためにどうすればよいか考えるか、ルール自体を見直すかしなければなりません。これではルールとデジタル化による業務の変化との折り合いをつけるために膨大な時間と手間がかかってしまいます。

細則主義がデジタル化に不利になる理由の2つ目は、デジタル化によるメリットを十分に享受できないという点です。そもそも業務をデジタル化することのメリットの1つは、問題が見つかったときやより良い手順が見つかった時などに素早く修正できる点にあります。しかし、細則主義では細かいルールとの整合性の確認に手間取って修正に時間がかかってしまいます。

例えば全社規模で決裁フローを変えることになったときに、アナログのままではルールを文書化し、各支社や営業所などの社員に周知徹底させなければなりません。それには数日、或いは数週間かかることもあります。しかし、ワークフローシステムを導入して決裁フローをデジタルで処理できるようにしていれば、システム上での変更によって新しい決裁フローを実装することができます。もちろん社員への伝達は必要ですが、業務の変更は即座に、確実に適用されます。

しかし細則主義では、せっかくデジタル化によってスピーディーに業務を変更できるにも関わらず、ルールとの整合性の検討に時間がかかってしまうことで、せっかくのデジタル化のスピードの恩恵が相殺されてしまいます。

職場でデジタル化を進めようとしているものの遅々として進まない、或いはデジタル化によって何も良くなった気がしないという方は、「完璧主義」と「細則主義」の文化が根強く残っていないか、チェックしてみてはいかがでしょうか。