本連載の第113回では「注力すべき仕事を特定しよう」と題し、3つの視点から集中して取り組むべき仕事を見極める方法についてお話をしました。今回は組織の業務改善に際して気を付けておいて頂きたい事柄をお伝えします。

働き方改革、コロナ禍によるテレワークの推進、さらにDX(デジタルトランスフォーメーション)の流行りなどを受けて、多くの企業で自社の業務を見直す動きが活発になっています。変動の激しい世界で生き残る上では、こうした動きは不可欠でしょう。

その一方、長年続けてきた業務を根本から再構築することは容易ではありません。そうした取り組みが失敗してしまったという話は枚挙にいとまがありません。そこで、なぜ組織レベルでの業務改善が失敗してしまうのか、気を付けるべきことは何かについて、よくある3つの要因を軸にお伝えします。

実は目指していることがバラバラ

業務改善の取り組みに参画している部署や人の間で、実は目指していることが統一されていないということは多々あります。組織全体として「業務改善」をテーマに挙げているものの、ある人は「テレワークの推進」を至上命題と捉えている一方で、もう一人は「生産性の向上」を目指しており、また別のある人は「社員のスキルアップ」を狙っているというようなことは意外と起きているものです。

また、そこまであからさまではなくとも、「テレワークの推進」という一つのテーマに集約できていても対象範囲や時期、前提条件などについては人によってイメージが異なるということはよくあります。

このように目指していることや、そのイメージがバラバラのままでは、業務改善に携わるメンバーがどれほど優秀であっても取り組みが上手くいくはずがありません。各々が自分の目指すことを追求するだけで全体としての統一感がなく、取組み自体が志半ばで空中分解するのは目に見えています。

そうならないためにも、まずは自分たちがその取り組みで何を目指すのか、しっかり議論して統一した認識を持つことが先決です。

取り組みへの参画が片手間

業務改善の取り組みに参画するメンバーは自分の今いる部署での仕事をしながら、それとは別にこうした取り組みに参画しているということがよくあります。そのようなメンバーの全員が自ら進んで取り組みに参画しているのであればよいのですが、上司の指示で仕方なく参画しているという場合には要注意です。

そもそも現業に従事しながらでは、どうしても取り組みへの関与度が下がってしまいますし、業務を見直した結果、仮に自部門の業務を大幅に変更するとなると、自分自身や部署の人たちにとって一時的にせよ大きな負荷をかけざるを得なくなることも懸念材料になります。

そうすると、業務改善の取り組みに十分に時間をかけられないばかりではなく、業務の抜本的な見直し案を出したり、そのような案をサポートするような意見を出せなくなってしまったりすることは容易に想像がつきます。

そこで、可能であれば業務改善の取り組みに参画するメンバーの数名、或いは少なくともリーダー格については取り組みに専念できるように環境を整えることをお勧めします。

現場の業務に対する理解が浅い

組織全体として目指す姿を明確に定義・共有し、業務改善のための専門部署を作ったり、タスクフォースを立ち上げたりして準備を整えても、まだ油断はできません。メンバーで会議室に集まって議論するだけで施策を考えようとする組織がありますが、これは全くお勧めできません。

当たり前ですが、会議室にいるだけでは現場の業務の実態を把握できません。たとえ業務分掌や業務マニュアルなどが手元にあったとしても、実際にはそのとおりに業務がなされていないということは往々にしてあります。また、メンバーの中に以前、その仕事に携わった経験があるという人がいても、その頃と今では環境や仕事の進め方が大きく異なっているということもあり得ます。

業務改善の対象となる現場の最新状況を把握せずに改善施策を考えたところで、所詮は画に描いた餅になってしまうかもしれないと肝に銘じる必要があります。その上で、対象業務が現状、どのようになされているのか、負荷はどこに集中しているのか、課題は何か、などの最新の情報を集めましょう。そのために現場に赴き、業務を観察し、実際にその仕事をしている人から話を聞いて業務理解を深めるのです。

本稿では組織的な業務改善で失敗を招く、よくある3つの要因についてお話しました。組織によって環境は異なりますが、これまで見てきた多くの取り組みの中でもこれら3つのいずれか、或いは複数の要因によって失敗するケースを多く見てきました。読者の皆様の組織では同じ轍を踏まないように気を付けていただければ幸いです。