本連載の第111回では「正論だけで人は動かない」と題し、人を説得する際には正論に加えて感情に働きかけることの重要性をお話しました。今回は仕事におけるエネルギー配分の重要性をお伝えします。
東京オリンピックでは世界中からアスリートが集結し、熱い戦いを繰り広げています。日本勢も怒涛の活躍を見せていて、職場で専らの話題になっているのではないでしょうか。そのオリンピックの試合を見ていて驚かされたのは選手の集中力の高さです。特にメダルを取得した選手たちは皆、試合の中で「ここぞ」というタイミングで驚異的な集中力を発揮しているように見えます。このことはアスリートの世界だけでなく、私たちの日々の仕事にも教訓を与えてくれます。
日本では1日8時間勤務という会社が多いですが、勤務時間中、絶え間なく集中するというのはなかなか難しいでしょう。これはスポーツの世界でも同じです。
今回のオリンピックで正式種目になった3x3バスケットボールでは息をつく間もなく、激しい運動量で選手が動き回ります。競技の間ずっと全力で駆け回っているように見えます。それに対して5人制のバスケットボールでも当然運動量は多いですが、常に激しく動いているというわけではなく緩急があります。
これは偏に5人制では10分間×4クオーターの40分間の試合なのに対して、3x3は10分間という短い時間で決着をつけるという違いによるものでしょう。もし3x3と同じように終始全力で動き回ったら、5人制では40分間体力が続かずに途中でバテてしまうでしょう。
このことは私たちの仕事にも示唆を与えてくれます。1日8時間の勤務時間中ずっと全力を出し続けることは難しいですし、部下や後輩にそれを求めるのも無茶なことだと認識する必要があります。むしろそれをきちんと認識した上で、8時間の中でエネルギーをどう配分するかを考えるのがよいでしょう。
そこで、自分やチームの仕事の中で「集中して行うべき仕事」と「リラックスして行っても構わない仕事」を区別することをお勧めします。なお、いざやってみると8割、9割の仕事を「集中して行うべき仕事」に割り振ってしまうという方もいるでしょうが、それでは意味がありません。
「集中して行うべき仕事」は仕事全体の内、1割から多くてもせいぜい3割くらいにしておくべきです。それ以上多いと集中力が続かずに仕事の質やスピードが落ちてしまうからです。
そして、残りの7割から9割は「リラックスして行っても構わない仕事」に割り振るとよいでしょう。ちなみにこうした仕事は「雑にやってもよい」というわけではありません。あくまでも省エネでも問題なくこなせる仕事、ということです。
ではそれぞれのタイプの仕事をどう分けるかということですが、それは唯一絶対の答えがあるわけではありません。人によって大きなエネルギーを必要とする仕事とそうでない仕事は異なるからです。
例えば事務作業一つを取ってみても、殆どエネルギーを割かずにミスなく粛々とこなせる人もいれば、苦手意識があって膨大なエネルギーを消耗しつつ、さらにミスを頻発してしまう人もいるでしょう。
それを踏まえると、チームとして最適なエネルギー配分を達成する上では自分自身は言うまでもなく部下、後輩などの得意なことと苦手なことを把握しておくことは必須と言えます。概して得意なことはエネルギーの消耗が少なく、その逆もまた然りだからです。
ここまでの話を踏まえると、その人の得意なこと(=エネルギーの消耗が少ない)に割く時間を多めに取り、苦手なこと(=エネルギーの消耗が多い)に割く時間を極力少なくする、ということになります。それは個人としてのエネルギー効率が良い上に、チーム全体としても同様のことが言えます。
ぜひ一度、ご自身やチームの仕事についてもエネルギー効率の良い最適な配分を考えてみてはいかがでしょうか。