本連載の第107回では「フレームワークを使って議論をコントロールしよう」と題し、議論の停滞や偏りをフレームワークで打破する方法をお話しました。今回は会議に着目し、意思決定ができない会議がなぜ多いか、その原因の考察をお伝えします。
「……では、次回も引き続き検討しましょう」。
なかなか物事を決められず、検討を繰り返している会議の話をよく聞きます。厳しい言い方をしますが、もしも会議に出ているだけで参加者が仕事をしている気になっているのだとしたら大問題です。
意思決定が目的の会議であれば、その成果は何かしらの「意思決定」であって「議論」ではないはずです。こう話すと「議論も大事」という反論がありそうですが、何も議論が不要だと説いているわけではありません。ただ、その会議に求められている「意思決定」ができなかった時点で、議論には何かしら欠陥があったと判断せざるを得ないということです。
このことは、屋台でたこ焼きを注文したら5分経っても10分経っても完成せず、店主が「頑張って作ろうとしましたが今日は時間が足りなくて無理でした。でも途中までは出来たので、お客様が次回来店された時にそこから作ります!」と宣言するようなものです。
話を会議に戻します。会議で意思決定ができないのは何が原因なのでしょうか。多くの原因が考えられますが、ここでは2つの原因について説明します。
1. 実は何を決めるのかが分かっていない
「そんな馬鹿な」と思われるかもしれませんが、何を決めるのかがはっきりしていないことは意外とあります。
たとえば全国の支店に配属された新入社員の離職率を下げるために会議を開催したとします。しかし複数の支店からの出席者は、延々と自分の支社の状況を説明するばかり。主催者が痺れを切らして「離職率を下げるにはどうすればよいかアイディアを聞きたい」と迫ったことで漸く参加者からアイディアが出始める。そして多くのアイディアが出てきたことに主催者が満足し、次回以降も継続して議論しましょうと提案して会議は終了。
この会議自体に致命的な問題があるというわけではありませんが、延々と会議を重ねて状況の説明とアイディア出しをするだけで一向に「新入社員の離職率を下げる」という目的を達成できるかは疑問です。というのも、この例では会議で場当たり的に「状況説明」と「アイディア出し」をしているだけで、最終的に「何を意思決定するのか」がぼやけてしまっているからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。「離職率を下げるための施策と、施策を実行するための予算の2つを決定する」などと明確にしておくことなどが求められるでしょう。何を決めるかが明確になっていれば、延々と議論だけして意思決定しない会議から抜け出す一歩になるでしょう。
2. 意思決定の前提条件が分かっていない
目的が明確で、会議で何を決めるのか分かっていたとしても、なぜか延々と議論だけして意思決定に至らないというケースもあります。
たとえば本社の社員について「年末までに生産性を現状から10%向上させるため、実行に移す施策を決める」というのが会議参加者の間で共有されていたとします。しかし会議では「10%向上させるといっても現状のベースをどこに置くのかによって求められる改善幅が変わってくるのではないか」とか「そもそも生産性をどう定義しているのか」、さらには「本社の全ての部で同じ施策を実行するのか、それとも部署ごとに異なる施策を実行するのか」などの疑問が次々に参加者から提起されたとします。
このような状況では議論を前進させ、意思決定に至るまでには相当な回数を重ねることになるでしょう。この例では施策を決める際の前提条件が明確になっていないために、そこを参加者が疑問に感じているがために議論が前に進まないのです。
意思決定を目的とする会議を開催する際には、会議の目的や目標、意思決定すべきことに加え、対象、時期、リソースや言葉の定義などの前提条件を洗い出し、会議の主催者側で先にそれらを定めておくとよいでしょう。本番の会議ではそれらを提示した上で議論をリードするのです。それによって参加者は本題に集中することができ、ひいては意思決定までの過程を短縮できる可能性が上がります。
私は、巷には「とりあえず集まって話しましょう」という会議が多すぎると感じています。コミュニケーション自体が目的であればそれでよいでしょう。しかし、意思決定が求められる会議であれば、ただ漫然と議論するのではなく会議のアウトプットとして意思決定を行わなくてはなりません。そして、そのためには「会議で何を決めるのか」と「意思決定の前提条件」を明確にしておくことが欠かせないというお話をしました。
それ以外にも「前もって議題を決めておくこと」や「適切な参加者の選定」など考慮すべき要素は数多くあります。ぜひ一度、ご自身の会議を見直してみてください。