本連載の第104回では「フレームワークで思考の漏れを防ごう」と題し、フレームワークの意義と基本知識についてお話をしました。今回はフレームワークに対してよく聞く3つの誤解についてお伝えします。
ロジカルシンキングを語る上で欠かせないフレームワーク。本やインターネット上にはビジネスに関するフレームワークの情報が多く出回っているので幾つか知っているという方も多いでしょう。しかしフレームワークを使いこなして実践で問題解決を行っているというケースを見かけることは稀です。それはなぜでしょうか。
その理由は、フレームワークに対する3つの誤解にあるのではないかと考えます。
第一の誤解「フレームワークを完成させることがゴールである」
フレームワークのそれぞれの枠に該当する要素を埋めて完成させたことで満足してしまう人は少なくありません。確かに、要素が綺麗に埋められたフレームワークはそれ自体が一つの作品のように感じられるかもしれませんが、そもそも何のためにフレームワークを作ったのか、その目的を忘れてしまっては本末転倒です。
上司や会社の上層部へのプレゼンなどで、要素を埋めたフレームワークを提示して「問題を分析しました」と意気揚々と説明をしたところで、「それでどうやって問題を解決するのか」と突っ込みが入ることは免れないでしょう。フレームワークはあくまでも問題解決のツールであるという理解が不可欠です。
第二の誤解「フレームワークは穴埋めである」
フレームワークを紹介する本などを読むと、フレームワークを構成するそれぞれの枠には既に要素が入っていて、それらの要素を用いて鮮やかに問題解決していく様子が記述されていたります。そのせいか、フレームワークの枠に該当する要素を記述さえすれば問題解決できると思いこんでしまう人がいます。
しかし、いざやってみると穴埋めが一段落したところで「で、ここからどうすればいいのだっけ」とフリーズしてしまうというケースをよくお見掛けします。こういう人にとってみれば、「適切なフレームワークを選定して使ったはずなのに問題解決できなかったのだから、フレームワークなんて何の役にも立たない」と評価してしまうかもしれません。
もうお気づきのとおり、これは「フレームワークは穴埋めである」という誤解によるものです。そもそも穴埋めで解決できるほど単純な問題などそうあるものではないでしょう。フレームワークは魔法の杖ではないのです。
第三の誤解「フレームワークは自分で作るものではない」
巷ではマクロ環境分析のPEST、業界構造分析の5 Forces、市場環境分析の3Cなど数多くの有用なフレームワークが紹介されています。そして、「それらを使いこなそう」という話はよく聞きますが、「自社や自部署、自分を取り巻く環境や直面している問題に合ったフレームワークを作りましょう」という話を、少なくとも私は聞いたことがありません。
世間でよく知られているフレームワークは著名な学者やコンサルタントなどが知恵を絞ってよく考えられたものなので、元々それらのフレームワークが意図する種類の問題に対してはわざわざ自分でオリジナルのフレームワークを作る必要はないでしょう。
その一方、既存のフレームワークが役に立つケースというのは世の中に無数にある問題全てに適用できるわけではありません。そういうときこそ、オリジナルのフレームワークを自分で作ることが求められるのではないでしょうか。
こういう話をすると「フレームワークって自分で考えていいんですか?」と驚かれることがありますが、そもそも自分で作ってはならないという法律はありません。適切なフレームワークが世の中にないなら自分で作る、ただそれだけのシンプルな話です。
ただし自分で考えるにはMECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustiveの略、物事の全体を漏れなくダブりなく捉えること)の概念を理解していることが前提となることを言い添えておきます。
以上、フレームワークに対する3つの誤解についてお話しました。前述したとおり、フレームワークは魔法の杖ではないので要素を埋めたところで求める答えが自ずと導かれるわけではありませんし、既存のフレームワークが如何なる問題にも適用できるわけでもありません。もちろん、自分でフレームワークを作るのも一筋縄ではいかないでしょう。
それでもフレームワークは正しく使えば問題解決のツールとして一定の役割を果たします。次回は問題解決のためのフレームワークの使い方についてお話しますので、そちらもぜひご覧ください。