今年四月に働き方改革関連法が施行され、残業規制の厳格化や年次有給休暇の取得が義務化されました。また、定時帰りの主人公が奮闘するテレビドラマが話題に上るなど、「働き方改革」は今まさにブームの様相を呈しています。
その一方で日々仕事に追われて残業続き、「働き方改革」なんて遠い国のおとぎ話のように感じている方や、定時で帰るなんて周囲から「やる気がないヤツ」と見られそうでとてもできないという方も多いのではないでしょうか。
でも考えてみてください、本来「定時」とは仕事を終えなければならない時間です。それ以降も仕事を続けるということは「定時」までにやるべき仕事を終えられなかった、と捉えて是正すべきことなのです。
では一体、どうしたらきちんと仕事を終えて「定時」に帰ることができるのでしょうか。 裁量労働制のためにそもそも「残業」という概念すら存在せず、ワーカホリックな人間が跋扈するコンサルティング業界で新卒から昼夜問わず働き続けた苦難の時期を乗り越え、ついに成果を上げながら「定時」で帰り続ける日々を手に入れた筆者が、その仕事術を連載企画でお伝えします。
仕事を任されてもすぐ作業に取り掛かってはならない
まずイメージしてほしいのですが、「仕事ができる人」とはどんな人でしょうか。時間をムダにせず、素早く仕事に取り掛かってアウトプットを出す、そういう社員をイメージされた方も多いのではないでしょうか。
ところが上司から仕事を振られた際に一刻もムダにするまいと、すぐに作業に取り掛かる動きは一見すると迅速な対応をしていて効率が良さそうに見えますが、実際のところは逆効果になることがあるので「定時」で帰りたいのであればお勧めしません。ではどうしたらよいのかということですが、作業に着手する前にするべきことは3つあります。
作業着手前にすべきこと その1:目的と目標の確認
「ここにある資料の文書、内容を要約して今日中にまとめといて」。上司からこのように仕事を振られた際、すぐに「わかりました」といって作業に取り掛かることは危険です。
例えば上司が作業を依頼した目的が、要約した資料を用いて「見込み客に自社商品を売り込むため」だった場合と、「購買部に部品の調達先を見直させるため」だった場合とでは、要約してまとめる際のポイントが全く異なるはずです。それを確認せずに作業に取り掛かるのは、まるで登山の際に「どの山に登るべきか分からないのでとりあえず近くの山に登り始める」ようなものです。
それでは目的を確認できたらそれで安心でしょうか。答えはノーです。
作業の目的が「見込み客に自社商品を売り込むため」だと確認できたとしましょう。要約した資料はどのように使われるのでしょうか。プレゼンの際にプロジェクターで投影してビジュアルで分かりやすく見せるのでしょうか、それともメールで送付して読んでもらうのでしょうか。
前者であれば文字数は最小限に抑え、図やグラフ等でシンプルにまとめることが求められるでしょうし、後者であれば口頭での説明がなくてもしっかり伝わるように過不足なく文章で記述することが求められるでしょう。このように、同じ目的でも作業の目標地点がまるで変わってきますね。
作業着手前に「目的」と「目標」を確認することの重要性、お分かりいただけましたでしょうか。
作業着手前にすべきこと その2:作業結果イメージのすり合わせ
「見込み客に自社商品を売り込むため」という目的を確認し、「プレゼンの際にプロジェクターで投影してビジュアルで分かりやすく見せる」という目標の確認ができたので、安心して作業に取り掛かりました。そして数時間後、作業が完了して上司に持っていくと・・「なんか、イメージと違うんだよなぁ。グラフを使うのはいいけど先方はあまり細かくて情報量が多いのは嫌がるタイプだから、もっとシンプルに作り直してよ。」と言われてやり直し。
このように、せっかく手間暇かけて作った資料が大幅にやり直しになってしまうことってありますよね。本ケースでは今日中に資料のまとめが完了していないと困るので、もしこの時点で定時間近だったとすると残念ながら残業決定です。
このような事態を回避するには、作業着手前に作業完了時点でのイメージを上司とすり合わせることです。
こう言うと、「これから作業に取り掛かろうというときに完了時点のイメージなんてできるわけがない」と思われる方もいるかと思います。しかし、完了時点のイメージを持たずに作業をするということは、ハンバーグを作ろうとしてひき肉をこねている人が、ハンバーグの形をイメージせずにいくら頑張ってこねてもハンバーグが出来上がらないのに等しいのです。
ではどうやって完了時点のイメージを持つかということですが、確認済みの「目的」と「目標」を意識した上で「大体こんな感じでどうか」というイメージを紙に手書きしてはいかがでしょうか。それを上司に見せて「そうそう、そんな感じで頼むよ」と言われればよし、「うーん、もう少し全体的にシンプルにして、文字数はこれくらい少なめに」と言われればそのコメントをイメージに取り入れればよいわけです。さらに「ちょっとその紙貸して」と言って上司が自らイメージを修正してくれたら、しめたものです。
いずれにせよ資料が出来上がったときに「全然イメージが違う!」と大幅な修正が必要になる事態は免れるでしょう。
作業着手前にすべきこと その3:アプローチ(手段/方法)の熟考
目的・目標を確認し、イメージのすり合わせが出来たのでいい加減、作業に取り掛からせてくれ! と逸る気持ちはあるでしょうが、その前にもう少しだけお付き合いください。作業着手前、最後にやるべきことが残っています。それは「アプローチ(手段/方法)の熟考」です。
先ほどのプレゼン資料の場合を取ってみても複数のアプローチを考えることができます。例えば、先に資料を全量読み込み、その中からプレゼンに使えそうな情報を抽出して要約し、それを並び替えてプレゼン資料に落とし込むボトムアップ型のアプローチと、先に見込み客を説得するためのストーリーを作成し、そのストーリーを裏付けるためのデータを探してきてグラフにしてプレゼン資料に落とし込むトップダウン型のアプローチが考えられます。
どちらも結果的には同じものが出来上がるかもしれませんが、本ケースでの作業効率は圧倒的にトップダウン型の方が高いと考えられます。
本ケースにおいてボトムアップ型のアプローチで進めることは、何の部品かよくわからないパーツをとにかく集めてきて、そこから偶然にも噛み合うものを選別してプラモデルを作る行為に等しいと言えます。それに対してトップダウン型のアプローチでは、最初にプラモデルの設計図を描き、そこで必要なパーツを定義して集めてくるのと同様です。どちらが効率的かは明白でしょう。
最終的に同じものを目指していても、アプローチ次第で効率に雲泥の差がつくことをご理解いただけたでしょうか。
以上3点、作業着手前にすべきこととして「目的と目標の確認」、「作業結果イメージのすり合わせ」、「アプローチ(手段/方法)の熟考」をご紹介しました。これらを意識して行うだけでも作業効率が上がり、定時帰りに近づくことでしょう。
著者プロフィール:相原秀哉(あいはら ひでや)
株式会社ビジネスウォリアーズ 代表取締役
慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 "Lean Master"に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。