今のIoTブームはホンモノ?

「IoT」と言う言葉が飛び交っていますね。日本でも数年前から耳にするようになり、当初は、バズワードとして一過性な流行と思われている節もありました。

しかしながら、ここに来て、イノベーションが期待できる、つまりビジネスチャンスが見いだせる潮流だと認識さるようになり、盛り上がっています。2016年はIoT元年と称する人もいます。

IoTとは、Internet of Thingsの略。直訳すれば、モノのインターネットです。

パソコンやタブレットといった情報機器のみならず、エアコン・冷蔵庫・ドアといった家電/家財や、自動車・生産機械・医療機器といった機械/設備といった、これまでインターネットに接続されることを想定していなかったモノも、インターネットにつないで、データの取得を行い、取得したデータから価値ある情報を見いだし、何らの形で社会に役立てようとする概念です。

モノにコンピュータを組み入れて、ネットワークを介して情報をやりとりするという動きは、決して、新しいことではなく、「ユビキタスコンピュータイング」、「どこでもコンピュータ」、「M2M(Machine to Machine)」といったキーワードで取り組まれていました(あるいは現在も取り組まれています)。

これまでの取り組みとの違いとして、背景にネットワーク高速化/記憶装置の大容量化といたクラウド技術の進展や、世界的囲碁名人に勝利したAlphaGoで有名になったディープラーニングをはじめとする機械学習(人工知能AIのひとつのジャンルですが以降、AIと表記します)の進化があり、これらをIoTという枠組みの中に取り入れている点があげられます。

図1 : IoT概念図

あらゆるモノをインターネットに接続し、モノから得られるデータを蓄積/分析/加工することで得られるものは何か。それは、価値をもつ情報です。

これまでも、コンピュータに蓄積されたデータを、コンピュータ上のアプリケーションソフトによってヒトが解析※1を行い、価値ある情報を取り出してきました。

※1 コンピュータが解析するにしても、ルールはヒトが決めていますね。

モノをインターネットに接続することで、さらに大量のデータが、リアルタイムで取得でき、機械学習/AIを利用することで、大量のデータであっても疲れ知らずに、しかも、これまでとは異なるアプローチで、価値ある情報をみつけることができるようになったのです。このことがイノベーション すなわち新しいビジネスの創出に繋がるということで、今注目されています。

以上がIoTとは何者か、なぜIoTが注目されているのかの概要です。

IoT発展にはモノの支えは必須

IoTを語る上で、もうひとつ忘れてはいけない要素があります。 そう、モノとインターネットを繋ぐハードウエアです。

図2には、IoTのひとつの例をデータ視点でモデル化したものです(全てのIoTシーンを表したものではありません)。

図2 : IoTでのデータの流れ

私たちが住む自然界においては、状態が連続で変化するアナログが基本です。一方、コンピュータの世界では、データを数値として扱いますのでデジタルです。したがって、IoTを実現するには、実世界でのアナログ信号をデジタルに変換する装置(図2ではセンシング装置※2)、および データ処理の結果であるデジタル情報を実世界であるアナログに戻す装置(図2ではアクチュエーション装置※3)が必要となります。

※2 アナログ-デジタル変換するもの全てがセンサという意味ではありません。

※3 電気エネルギーを物理的運動に変換するものをアクチュエータといいます。ここでは外部に働き掛けを行うという意味で使用しています。

加えて、データ/情報の送受信をネットワークを介して行う通信装置も必要となります。

そして、これらハードウエアは基本電気を必要とします。家庭用AC電源を利用することも可能ですが、あちらこちらに存在することが想定されているIoT機器のすべてに電源ケーブルがついているととても煩わしいです。ですので、電池駆動となります。

通信も、ケーブルを使って行うことも可能ですが、これまた煩わしいので無線となるでしょう。無線は、結構電力を消費しますが、頻繁に電池交換を行うのも、時間的にも、費用的にもコストがかかることになります。このことから、省エネルギーで動作するハードウエアが求められます。

また、アクチュエーション側はともかく、センシング側は、モノ本来の機能に必要なものではないことが多いでしょうから、できる限り目立たない(省スペース)ことが求められます。もちろん、付随機能ですから、コストが掛からないことも当然求められます。

以上のことから、IoTの潮流が生まれた要因として、上述したハードウエアの省スペース化/省エネ化、低価格化が進んだことも忘れてはならないことです。

業務システムエンジニアに贈る、Thingsの物語り

IoTと一言で言っても、センシング、通信、ネットワーク、データ蓄積、データ解析、アクチュエーション、省エネルギー化、セキュリティ※4、等々、技術領域だけみても扱う領域は非常に広大です。

※4 IoTにおいては セキュリティは、非常に大切な技術なのですが、大海原ですので、本コラムにおいては触れません。

本コラムでは、IoTの入口と出口であるハードウエアに視点を当てます。さらに、その中でも、入口、 そして、インターネットへの接続を仲立ちする通信 Last One Hopに焦点を当てます。

なぜ、ハードウェアなのか。私が長年、組み込みエンジニアとして、携わってきたことが多分に大きいです。加えて、IoTの概念やデータ処理、インターネット側について語る読み物は沢山ありますが、Things側に焦点を当てた物語りが少ないからです。

前置きが長くなりましたが、このコラムでは、IoTの世界を踏まえつつ、組み込み経験のない、業務アプリプログラマーさん向けに、組み込みの世界がどういう雰囲気なのかを具体的な機器やソースコードを使ってお伝えしていきたいと思います。

具体的には

  • IoTのThings側を支えるテクノロジー
  • インターネットへの橋渡しの通信(Last One Hop)
  • 情報端末との親和性
  • 実機プログラミング

を中心に今回を含めて全10回で進めていきます。

また、本コラムとして取り扱う機器としては、PSoC BLE Pioneer kit(Cypress社製)を考えています。

なぜ、いま流行のArduinoやRaspberry Piではないのか。Arduinoはプログラム経験が少ない方や思いついたアイデアを超速で形にするための仕組みが用意されていて便利なのですが、仕組みから外れたことを行おうとするととたんに敷居が高くなってしまいます。

一方、Raspberry Piは OS利用が前提となっており、IoTのモノ側の入り口/出口としては、少々立派過ぎます。また、両者ともIoTで必要な低消費電力の無線通信システムを標準で用意していません(シールドと称する拡張ボートやUSBデバイスによる拡張を行えば対応することは可能ではあります)。

以上に加えて、アナログ・デジタル問わず必要なハードウエア機能とBLE(Bluetooth Low Energy)というスマートフォンと非常に親和性の高い通信システムを備えているのが選んだ理由です。

図3 : PSoC BLE Pioneer Kit (Cypress社製)

本コラムで紹介するPSoCシリーズは、Arduinoほど手軽ではないですけど、思いついたアイデアを形にするには便利な道具です。私は、重宝して使っています。詳しくは、次回以降のコラムの中で紹介します。

全10回、長丁場になりますが、しばらくお付き合いくださると幸いです。

著者紹介

飯田 幸孝 (IIDA Yukitaka)
- アイアイディーエー 代表 / PE-BANK 東京本社所属プロエンジニア

計測機器開発メーカ、JAVA VMプロバイダの2社を経て、2007年独立。組込機器用ファームウェア開発に多く従事。2015年より新人技術者育成にも講師として関わる。PE-BANKでは、IoT研究会を主宰。

モノづくり好きと宇宙から地球を眺めてみたいという思いが高じて、2009年より宇宙エレベータ開発に、手弁当にて参画。 制御プログラムを担当。一般社団法人宇宙エレベータ協会主催「宇宙エレベータチャレンジ2013」にて、世界最長記録1100mを達成。

宇宙エレベータ開発のご縁で静岡大学の衛星プロジェクトStars-Cに参画。2016年12月、担当ユニットが一足先に宇宙に行き、地球を眺める。