本連載では、企業において利用されるスマート・デバイスやモバイル・アプリケーションを「エンタープライズモバイル」と総称し、その活用方法について解説していきます。「そもそもエンタープライズモバイルとは何か?」というところから、導入に向けた取り組み方や具体的な活用例、課題など、多くの方が疑問を抱きやすいポイントを中心に体系的に説明していく予定です。

第1回目となる今回は、現在の市場感や企業でのスマート・デバイス活用とはどういったものなのかなどを説明し、全体を俯瞰していただきたいと思います。

企業はモバイル活用を今こそ真剣に検討しなければならない

最初に、以下のデータをご覧ください。MM総研が2016年2月に発表した、国内におけるスマートフォンの出荷台数です。

携帯電話端末出荷台数(2012年 - 2015年)/出典:(株) MM総研 [ 東京・港 ]

これを見ると、2012年以降、出荷台数は減少してきていることがわかります。東京や大阪といった大都市で電車に乗って周りを見渡すと、ほとんどの人がスマートフォンを手にしているように感じませんか? つまり、市場は飽和に向かっているということです。

次に、以下のデータをご覧ください。同じくMM総研が2016年1月に発表した企業における法人名義のスマートフォンの導入率です。

法人名義のスマートフォン導入利用状況とニーズ/出典:(株) MM総研 [ 東京・港 ]

こちらは増加しています。確かに、ビジネス・シーンではいまだに会社貸与のフィーチャーフォン(いわゆるガラケー)を使っている人を多く見かけます。

上記2つのデータから見えてくるのは、「企業への導入タイミングは、一般的なマーケットよりも数年遅く訪れる」ということです。

筆者が経営するNCデザイン&コンサルティング(NCDC)は、2011年に創業しました。最初から「企業のモバイル活用に特化した会社」としてビジネスを始めたのですが、確実に創業当時より現在のほうが企業からの問い合わせは増えました。内容も、当時はスマートフォンの端末管理の相談や、セキュリティに関する話が多かったと記憶しています。つまり、スマート・デバイスの導入検討に関する問い合わせや相談だったということでしょう。

しかし、最近は「アプリを使っていかにビジネスの価値を生むか」という相談が圧倒的に増えてきました。検討内容が「導入」から「活用」へと変化していることを日々体感しています。つまり、先のデータはビジネスの現場で感じる実感にも非常にマッチしているということです。そう考えると、今こそ、企業がモバイルを活用してビジネスを本格展開していく時期なのだと言えます。

そもそも、エンタープライズモバイルとは何か

さて、ここで本連載のテーマである「エンタープライズモバイル」について定義付けをしておきましょう。

言葉の通り解釈すると、「企業で使うモバイル」ということになります。「企業で使う」というのは、従業員が使うという意味だけではありません。企業が自分たちの顧客に向けたサービスにモバイルを活用することも、エンタープライズモバイルの範疇だと考えるべきでしょう。

整理すると、エンタープライズモバイルの活用領域は次の3つに分けて考えることができます。

  • BtoE(自社の従業員向けのスマートデバイス活用)
  • BtoB(他社やその従業員向けのスマートデバイス活用)
  • BtoC(自社のお客様向けのスマートデバイス活用)

それぞれの具体例については次回以降で説明します。まずは、なぜ今エンタープライズモバイルが注目されているのか考えてみましょう。

最も大きな理由は、上述したように多くの人にスマートデバイスが浸透したことと、企業内においてもスマートデバイスが導入され始めていることにあります。加えて、スマートデバイスは単なる携帯電話ではなく、人の生活や仕事に密着した小型コンピュータであるという点もポイントです。多くの人が、日常の活動時だけでなく、食事の際やトイレに行く際、寝る時までもスマートフォンを携帯したり、近くに置いていたりするようです。そうした身近なデバイスを、もっとビジネス・シーンで活用しようと考えるのは当然の流れでしょう。

また、スマートデバイスならではの機能を活用したいというニーズも、エンタープライズモバイルが注目されている理由の1つです。最も多いのは「カメラ機能の活用」と「ボードタイプである形状の活用」の2つだと考えられますが、ほかにも「GPSなどの各種センサー」や「キーボードに抵抗のある世代の方にも馴染みやすい」といったPCにはない機能の存在も見逃せません。

一般の方にスマートデバイスがほぼ行き渡り、企業内でもフィーチャーフォンからスマートデバイスへの移行が急激に進みつつある2016年ですが、これからの5年は確実に「企業としてスマートデバイスをいかに活用するか?」が企業戦略の重要なポイントになってきます。つまり、「エンタープライズモバイル」は将来のソリューションではなく、今後5年でどの企業も必ず取り組まなければいけないテーマになると言えるでしょう。

電子メールを使っていない企業、Webサイトがない企業、業務にITシステムをまったく使っていない企業などはほとんどないと思います。しかし、15~20年前、ようやく企業内で1人1台のPCを使う動きが出始めたくらいの時代には、上記のような企業は当たり前に存在していました。スマートデバイスも、同じ歴史を繰り返そうとしています。今、企業は必ずエンタープライズモバイルを考えて活用していかなければならないのです。

次回は、エンタープライズモバイルのわかりやすい活用例などをご紹介しましょう。

早津 俊秀
企業のUX・モバイル活用の専門企業であるNCデザイン&コンサルティング株式会社を2011年に起業。 ITアーキテクチャの専門家とビジネススクールや国立大学法人等、非IT分野の講師経験をミックスして、ビジネス戦略からITによる実現までをトータルに支援できることを強みとする。