P2Pファイナンスは、Fintechにおける古くて新しいテーマの一つです。お金の融通という、金融の本命機能の新しい形での提供について、個人向けのビジネスの代表的な例を今回は見ることとします。

P2Pレンディングとは

P2Pレンディングとは、お金の借り手と貸し手について、インターネット上のプラットフォームを用意して貸付を行う仕組みです。従来、銀行は預金を集め、お金を借りたい人により高い金利にて貸付を行うことで、その差額を収益源としてきました。

P2Pレンディングでは、お金を借りたい人がプラットフォームに申し込みを行うと、直接お金を貸せる人とのマッチングを受けることができます。当然ながら、借り手が破産などで返済不能となれば、貸し手側も損失を被ることとなります。この形は、銀行などの金融機関の中抜きともいえる構図であることから、インターネットの普及当初より多くの関係者が期待してきたものでもありました。

現存するプレーヤーの中で、いち早く規模を拡大したP2Pレンディングのプレーヤーとしては、2005年よりサービスを開始した英国のZopaがあります。その後、様々なプレーヤーが台頭した中、実際に大規模のスケール化に成功した事例としては、2014年に上場した米国の「Lending Club」があります。

「Lending Club」ホームページ画面

Lending Clubの急拡大とその背景

Lending Clubは個人の住宅ローンやクレジットカードローンの借り換えなどに焦点を当て、累計で1兆円以上の融資をマッチングしてきたプラットフォームです。同社が拡大を遂げた理由としては、P2Pレンディングにおける貸出実績の蓄積と、機関投資家の参加があります。

貸出の実績については、様々なプラットフォームが設立されてから、5-10年が経過したことで、このような借り手の平均的な姿や、景気が悪くなった際の返済能力について、統計的な判断が可能となってきたことが挙げられます。このことにより、例えば事前にプラットフォーム側で、この借り手は安全、この借り手はリスクが高い、といった格付けを行うことが可能となってきました。

格付けが可能となったことで、投資家層は従来の個人投資家中心の形から、運用リターンを求めるヘッジファンドなどへの拡大が見られています。莫大な運用資産を持つ機関投資家は、個人以上に迅速な投資が可能であるため、プラットフォームの規模拡大に寄与し、Lending Clubは上場にまで至りました。

学費ローンに新しい姿をもたらすSoFi

P2Pレンディングの、より新しい付加価値を示す代表格といえるのが「SoFi」です。同社は2015年10月にソフトバンク社から1,200億円という巨額の資金調達を行ったことでも有名となりました。

「SoFi」ホームページ画面

同社は学生の学費ローンの借り換えに強みを持つプラットフォームで、すでに発生した学費の返済を、より借り手に有利な利率で行うことを強みとしています。その背景として、ビッグデータを活用し、返済能力の高い借り手を探し出すのと共に、貸し手側についても大学の卒業生たちを集めることで、高い金利を要求しにくい層を選んでいることが挙げられます。

また、単純に借り手と貸し手をマッチングするのみでなく、履歴書の書き方や、面接の受け方の訓練、キャリアに向けた相談などを実施することで、借り手の将来の給与水準を上げる取り組みも行っています。借り手の返済能力が改善することで、単純なプラットフォームとして以上の価値を提供している好例となります。

日本におけるP2Pレンディング

日本でも数社、P2Pレンディングは存在していますが、これらの拡大はまだ緒についた段階といえます。その大きな背景としては低金利環境があり、個人や中小企業が比較的安い金利でお金を借りることができ、それゆえプラットフォームへの需要が相対的には低い点が、英国や米国などとは異なる背景といえます。

しかしながら、上記のようなビッグデータの活用や、借り手の質を上げることができるプラットフォームといったアイデアは、日進月歩でその精度を向上させてきています。これらをうまく生かすことができるプレーヤーが出てくることで、新しいローンの借り方が浸透する日も来るのかもしれません。

執筆者プロフィール : 瀧 俊雄(たき としお)

株式会社マネーフォワード取締役 マネーフォワードFintech研究所長。2004年慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。野村資本市場研究所にて、家計行動、年金制度、金融機関ビジネスモデル等の研究に従事する。2011年スタンフォード大学経営大学院に留学。卒業後は野村ホールディングスCEOオフィスに所属する。その後マネーフォワードを創業し、経営全般やカスタマーサポート、お金やサービスに関する調査・研究を担当。TechCrunchや週刊金融財政事情などに寄稿。