Fintechの諸領域の中でも、地道な発展を遂げている領域としてロボアドバイザーがあります。伝統的な金融機関とは一線を画す、安くてかしこい資産運用の提供者として、ロボアドバイザーは近年内外で注目されつつあります。
投資の世界における個人の投資手段の発展
日本の個人にとって、資産運用が本格的に重要なテーマとなり始めたのは1990年代後半からとなります。バブル崩壊後、終身雇用や年金といった、未来の生活を支える制度に個人が不安を覚え始め、自助努力による資産形成が求められるようになりました。一方で、それまでの高い預金金利や株価上昇の時代も終わり、リスクを加味した注意深い資産運用が求められるようになったことから、従来と比べて資産形成の難易度も格段に上がりました。
そのような背景の中で、株式取引手数料の完全自由化が行われた1999年は重要な年となりました。同年、マネックス証券、松井証券、カブドットコム証券やイー・トレード証券(現SBI証券)といったオンライン取引に強みを持つプレーヤーが証券業界に参入し、個人の株式や投資信託の取引をより安く、身近なものへと変えていきました。
その後も、FX取引や、独立系の運用会社などの登場もあり、買うべき銘柄や商品が分かる人であれば、非常に安い手数料で、適切なリスク・リターンを享受できる質の高い投資を行うことが可能となりました。
一方で、「そもそも自分は何を買えば良いかわからない」層に向けたサービスは、様々なオンライン上の取り組みがされてはいるものの、決定打となっていないのが実情です。自らの投資ニーズを理解できるのはごく一部のユーザーに限られるため、将来に向けた資産形成においては対面営業や、人を介したアドバイスが引き続き存在してきました。
このニーズに対して、人工知能を用いて助言を含めた資産運用を提供するのがロボアドバイザーになります。
ロボアドバイザーの台頭
ロボアドバイザーとは、まさに「何を買えばよいか」を決める機能と、このニーズに即した金融商品を提供するサービスです。典型的にはETF(上場投資信託)を中心に、売買を含めて一任運用を行う運用会社(場合によっては証券会社の機能も含む)のことを指しています。
一般的なロボアドバイザーでは、6-10個程度の質問に答えると、購入するべきポートフォリオが提示されます。その後、例えば年齢を経るごとにリスクを取りづらくなるので、ハイリスクの資産を自動的に減らしたり、値動きに応じたリバランス(例えば、株価が上がった場合には、同じ比率を維持するために株式を売却し、他の資産を買うことが必要となります)を行ったり、といった手続きを代行します。このような一連のサービスを、年率で資産の1%程度の手数料でお任せにて運用でき、そのお任せの内容について、様々な人工知能を用いたレベルでの競争が行われています。
海外では、BettermentやWealthfront、Personal Capitalといったロボアドバイザーが数千億円単位での運用資産を集めることに成功しています。米コンサルティング会社によれば、2020年にはロボアドバイザーが200兆円以上もの資産を運用するという予測もある中で、大手の金融機関もこの業態に参入してきており、先端的な「かしこい」投資をより身近にできるツールとして脚光を浴びています。
日本でも、お金のデザインとWealthNaviという2社がベンチャーとしては知名度を上げつつある中、マネックス・セゾン・バンガード投資顧問やエイト証券といった既存金融機関もこの分野に参入しています。他にも複数のプレーヤーが立ち上げ中であり、より良いサービス提供をめぐって、2016年は積極的な顧客獲得が展開されていくものと見られています。このような競争を通じて、より分かりやすく、将来に向けて有利な備えができる商品が個人に提供されていくこと期待されています。
執筆者プロフィール : 瀧 俊雄(たき としお)
株式会社マネーフォワード取締役 マネーフォワードFintech研究所長。2004年慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。野村資本市場研究所にて、家計行動、年金制度、金融機関ビジネスモデル等の研究に従事する。2011年スタンフォード大学経営大学院に留学。卒業後は野村ホールディングスCEOオフィスに所属する。その後マネーフォワードを創業し、経営全般やカスタマーサポート、お金やサービスに関する調査・研究を担当。TechCrunchや週刊金融財政事情などに寄稿。