Fintechによる金融サービスの進化は、対消費者(B2C)向けチャネルのソリューションがよく取り上げられますが、ビジネス向けのサービスでも新しい動きが見られています。特に、クラウド型の会計ソフトと連動して、融資を行うサービスの台頭が注目されます。今回は米国におけるこのような事例を見ることとします。
SaaSやECデータとの融合
前回、進化した家計簿であるPFMサービスの現状をご紹介しましたが、企業の家計簿ともいえる会計ソフトウェアの世界ではこの10年間で、従来のようなPCへのインストール型のソフトから、主にブラウザを介してどこでも同じ情報にアクセスすることができるクラウド型へと移行しました。その背景として、いつでも経営情報が見られることや、逐次改善される機能への評価、Macでも使えるデータサービスが求められるようになったことなどが挙げられます。インターネットに直結するこれらサービスは、それまでのソフトウェアと区別してSaaSと呼ばれるようになりました。
SaaS上で管理される企業データでは、従来と比べて格段に他サービスとの連携が可能となり、金融サービスとの融合が見られ始めています。会計データとの連携では、例えば米国で中小企業向けに圧倒的なシェアを誇るIntuit社の会計ソフトQuickBooksを使っていれば、KabbageやOnDeckといった複数のノンバンクからのスピード審査を受ける事が可能となりました。
これらのノンバンクの融資審査では、利用者側が承認を行うことで、ノンバンク側が自動的に会計データを審査することが可能となっています。さらに、貸し手は会計ソフトのデータを取り込むのみならず、更に付加的な情報収集や分析を行うことで、新たな融資市場を作り出しています。
一例を取ると、最近大型調達を行った「Kabbage」では、EC事業者に対して、ECサイト内での売れ行きや集客力を自動審査する仕組みがあります。ECサイトは、不動産や資産をあまり持たないことも多く、従来は中々融資審査が厳しい市場でしたが、Amazonのアカウントを連携することで、Kabbage側が訪問者数や、実際の売上傾向を計測し、信用力を精緻に判断することが可能となりました。
請求書の現金化サービス
さらに、従来とは異なる融資の形の中でも際立った事例として、請求書サービスの現金化があります。
米国の「Fundbox」という会社では、企業が発行した請求書について、請求先の支払いを待たずにその現金化を行うことが可能となっています。請求者では通常、発行時にその入金期限が1カ月以上先に設定されることがありますが、その間、企業は手元にお金があるわけではないため、発生している売上を元にした事業を行うことができず、結果として、運転資金を確保する必要がありました。
このような状況に対して、Fundboxは、請求書の現金化ソリューションを提供しています。具体的には、請求書を発行している会社の財務データを審査しつつ、請求先の業態の審査を行うことで、ある請求書をバーチャルな担保として見て、信用力を勘案したスピード融資を行っています。
従来も、例えば約束手形など、より確実に支払いが見込まれる債権についてはこのような現金化は行われてきました。しかし、データ分析の力と、より新しい利便性を求める中小企業のニーズが融合して、請求書そのものの担保化という新たな市場が生まれた形といえます。
Fintechで可能になるPDCAと財務サイクルの短期化
上記の事例を見ると、元々会計ソフトなどで企業の事業の改善プロセス(いわゆるPDCAサイクル)が短期化している所に、融資ビジネスが重なっていくことで、財務面での活動も円滑化している実態を見て取ることができます。
個人と同様に、法人にとっても様々なデータが可視化され、自動分析される中で、より本質的で得意な領域に経営資源を集中し、収益性を高めていくことが可能となっています。テクノロジーの力で、貸し手・借り手の間で新たな関係が成立するという、まさにFintechといえる動きと言えます。
執筆者プロフィール : 瀧 俊雄(たき としお)
株式会社マネーフォワード取締役 マネーフォワードFintech研究所長。2004年慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。野村資本市場研究所にて、家計行動、年金制度、金融機関ビジネスモデル等の研究に従事する。2011年スタンフォード大学経営大学院に留学。卒業後は野村ホールディングスCEOオフィスに所属する。その後マネーフォワードを創業し、経営全般やカスタマーサポート、お金やサービスに関する調査・研究を担当。TechCrunchや週刊金融財政事情などに寄稿。