2015年9月8日(火)付の日経1面に「一人で家電ブランドを立ち上げた」人についての記事が掲載されていた。同記事の写真は、ブルーとグリーンの中間色「blue×green(ブルー・バイ・グリーン)」で統一した自社製品と一緒に若い女性が。この女性がベンチャー企業UPQ(アップ・キュー)(東京・千代田区)の代表、中澤優子さんだ。取材を申し込んでから約1カ月でようやくお会いすることができた。
主婦的視点で要点箇条書き
(1)UPQは、スマホ、アクションスポーツカメラ、タッチパネル式透明キーボードなど、コンシューマー向けの家電製品を製造しているメーカーである
(2)ブランドの着想、商品の企画から製品化まで、わずか2か月
(3)「外部の資産をうまく使えば、女子ひとりでも、ものづくりはできる」と、中澤代表
ある日突然、会社が消えた
――どういうきっかけで、家電メーカーを立ち上げようと思われたのですか?
私は新卒でカシオ計算機に入り、携帯電話やスマホの商品企画をしていました。「携帯電話を作りたい!」という一心で会社に入って、5年間、モノづくりに没頭していました。けれど、ある日突然、会社が携帯電話事業から撤退することが決まり、やりたかった仕事が続けられなくなりました。一緒に仕事をしていた仲間も散り散りになり、2年以上かけて開発した製品も日の目を見ずに姿を消すことに。その衝撃は、ちょっと言葉では表現しようのない感じでした。
――そのリベンジで家電メーカーを立ち上げたというわけですか?
いえ、リベンジ=復讐、やってやる!というわけでもなくて(笑)。27歳で会社を辞めて、28歳からパンケーキメニューを中心としたカフェをはじめました。ただのカフェオーナーだった私が、昨年(2014年)au未来研究所ハッカソン 「食」に参加したのが、電気の通ったものづくりの世界に戻るキッカケになりました。ちなみに秋葉原でやっていたハッカソンに参加した動機は、私がやっているカフェから「近かったから」。そこで作った次世代IoTお弁当箱が、昨年(2014年)12月に経産省フロンティアメーカーズ育成事業に採択され、今年(2015年)の3月まで、海外でお弁当箱が売れそうな場所(フランス、イタリア、スペイン、イギリス、台湾、香港、アメリカ)に売りに行っていました。
商品の企画から製品化まで、わずか2か月
――お弁当箱から、家電!?
今年(2015年)の3月に日本に帰ってきて、4、5月はカフェに戻っていました。6月にフロンティアメーカーズ育成事業のメンターだった家電ベンチャーのCerevo(セレボ)の岩佐琢磨代表取締役と話す機会があって「お弁当箱の他に、何を作りたいの?」と聞かれて、「SIMロックフリーなスマホ」という話をしたら、「作れるでしょ」と。
――6月にそういう話をして、8月に製品化。すごいスピードですね。
みなさん「スピード、スピード」と驚かれますけれども、モノ作りの過程を凝縮すると、できなくはないスピードなんです。それよりも、「個人が、家電品を作れる環境が整ってきた」ということの方が大きなトピックだと思います。3DプリンターやArduinoような、プロトタイピングのハードルを下げるもの出てきたことで、個人が簡単に試作品を作れるようになるなど、モノづくりの世界が進化しています。
私がUPQでやっていることも、去年(2014年)ではできなかったと思いますし、今年(2015年)だからできたのだと思います。
個人でモノづくりをする環境が整ってきている
――今年と去年の違いは、何なのでしょうか?
DMM.make AKIBAができたこと大きいですね。DMM.make AKIBAは、去年(2014年)11月にできたレンタルオフィスですが、大きなメーカー中にあるような開発の機材(5億円規模)が揃っていて、それを使える技術がある人は、安価なお金でレンタルできます。日本には今までなかったんですよ。こうしたシェアオフィスができたことで、大きなメーカーでしか作れなかったものが、個人でも、頑張れば作れる状況になっているわけです。
――それでも、ひとりで家電メーカーを立ち上げる決意は、すごくないですか?
私の感覚としては、イヤリングを作ってフリマで売っている女性と、そう変わらないと思います(笑)。自分の「今できる最高」を作って、世の中に出すという意味で。今はデータをつくれれば、試作品は一瞬で形にできるようになりました。アイディアが思いついたら、時代が逃げないうちに、それを早く世に出したい。今「いい!」と思っているものは、即、世の中に出すのが正解だと思っています。同じようなスピードで世界は動いているので、考えたものをあたためて、2年後に出しても、市場がガラッと変わっている可能性があります。
そして良いモノを作ることを介して、ユーザーさんとコミュニケーションをとりたいと思っています。ユーザーさんに「いい!」と言って頂けたら、もちろん嬉しいし、一生懸命作ったけれど、「ここダメだね」と突っ込まれたら、「確かに、ここは自分も悩んでいた。これはダメだというのは伝わるんだな」と。
メーカーはモノを作り続ける存在なので、お客様とのコミュニケーションがあって初めて「循環」が起こるんです。「循環」を感じとれなくなると、メーカーは消耗していきます。だから、「モノを作って、モノを介してユーザーさんとコミュニケーションをする」。そこに、私はモチベーションがありますね。
主婦的感想
取材をさせてもらったのは、シェアオフィスの共用スペース。中澤さんが話をする後ろでは、マネキンに服を着せながら洋服を作っている男性がいた。24時間オープンしているオフィスは不夜城のようで、そこにはモノづくりをしている人たちの、活気があった。
UPQの商品は、リアル店舗蔦屋家電や、ビックカメラグループでも販売している。「店頭に行ったらUPQの商品がみてみたいという存在になっていきたい」と中澤さん。日本は、もともとモノづくりの国だった。モノ作りをする人達を後押しする環境が整い、若く、エネルギー溢れる人たちが、そこに集う。日本の明るい未来が見えた気がして、頼もしく、嬉しくなった。
筆者プロフィール: 楢戸 ひかる(ならと ひかる)
1969年生まれ 丸紅勤務を経てフリーライターへ。中学生と小学生の男児3人を育てる主婦でもある。メルマガ「主婦が始める長期投資」(メルマガ申し込みは、「主婦er」より)を書き始めて、視野の狭さを痛感。新聞を真面目に読もうと決意し、疑問点は取材に行く所存。