いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、荻窪の喫茶店「イマジン」をご紹介。
荻窪駅の北側、西口にある老舗喫茶
以前書いたように荻窪駅には"南側の西口"と"北側の西口"があるのですが、今回ご紹介する「イマジン」は後者。
駅階段を降りると目の前に現れる「白山通り(通称はなぜか複数形の"ハクサンタウンズ")」を、青梅街道を背にして左方向へ進んだらすぐ右側。「なごみの湯」という温泉施設のはす向かいにある、昔ながらの喫茶店です。
店頭に手書きで「開店 昭和53年」と書かれていることからもわかるとおり、この通りで長く営業を続けている老舗。
ちなみに最近お聞きしたら、開店当初は駅前のマクドナルドのあるビルの2階にあったそう。僕も高校生のころからお世話になってきた店なんだけど、あのビルにあったことは覚えてないなあ。
でも、この場所に移ってからの思い出は多く、とくに20代のころには友だちと夜遅くまで、ここで他愛もない話をしていたものです。
店内に足を踏み入れると、すぐ横にはCDプレーヤーやカセットデッキなどのオーディオ機器が。マスターが選曲した洋楽が、ここから店内に流れているわけです。なお店頭にもスピーカーが設置されているので、心地よい音楽は心地よい音量で、白山通りにも響いています。
そう、マスターは熱心な音楽ファンなんですよ。1980年代には、座席の片隅にギブソンのレスポールがさりげなく置かれていたりもしたなー。
でも、そんなこと以上に特筆すべき点は、なんといっても仕事との向き合い方。明るく人当たりがいい方なのですが、仕事に対するストイックな姿勢がビシッと伝わってくるのです。
キビキビと動きに無駄がないので、見ていてとても気持ちがいい。40年以上の歳月を経た店内がきれいな状態に保たれているのも、そんな生真面目さのおかげなのでしょう。
なお、コーヒーは自家焙煎されています。ということで本来なら熱いコーヒーをいただきたいところなのですけれど、あいにくこの日はものすごい暑さ。ということで、アイスコーヒーをお願いすることにしました。
もちろん、オーダーが入るたびに一杯ずつていねいに淹れてくれるスタイル。つくり置きしているわけではないのでそれなりに時間はかかりますが、そのぶん待つ楽しみも。
もちろん味も抜群で、ほどよい苦味が外の暑さを忘れさせてくれます。
それにアイスコーヒーには、喫茶店文化華やかりし1970年代の喫茶店によくあった銅製のカップが使われているんですよ。見た目にもひんやりしているし、昭和っぽいデザインがとてもいい。
さて、ちょうどお昼どきということで、なにか食べたいところです。でもここは基本的にコーヒーショップなので、食べるものはトーストとサンドウィッチくらいしか置いていないんですよね
けれどまったく問題なし。なぜなら、ミックスサンドがすごくおいしいからです。
当然こちらもオーダーが入ってからつくられるため、すぐに出てくるわけではありません。でも、調理中の様子を眺めていると、きちんとつくってくれているんだなあと安心できます。
やがてお目見えしたミックスサンドは、ほどよく焼かれた3枚重ねのパンの間に、たまごと野菜のサラダがたっぷり。食べてみれば、たまごにも野菜にもしっかりと手間がかかっていることがわかります。
アイスコーヒーとの相性も抜群だし、食べ終えればしっかりとおなかにたまるボリューム感。
手がかけられたものは、やはり満足感を与えてくれますね。
ところで、ここではずいぶん前から、夜にはお酒を出してバー営業をするようになっているんです。メニューをチェックしてみれば、ビールからウイスキー、ワイン、カクテルまでものすごく充実していることがわかるはず。
お酒を出すなら出すで、決して手を抜かずにとことんやるーー。そんなところにも、マスターの性格が表れている気がします。
とはいえ残念ながら、いまはコロナの影響で緊急事態宣言が出ている時期。
「そう、だからお酒を出せなくて……。いま、夜は早く閉めてるよ」
そうか……そうだよな。状況が状況だから仕方がないけど、でも、寂しい話だな。一日も早く、マスターが選曲してくれる音楽を楽しみながらお酒を飲める日が戻ってきてほしいものです。
●イマジン
住所:東京都杉並区上荻1-13-3
営業時間10:30~19:00
定休日:無休