いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、中野の和菓子店「冨士見野」をご紹介。
甘味処だけど、ラーメン!?
中野駅北口を出て北へ進むと、10分弱で早稲田通りに出ます。小さな路地が多いエリアなので、中野ブロードウェイの中を突っ切るとわかりやすいかも。
続いてブロードウェイの早稲田通り側の出口を出て右(早稲田方面)へ進むと、すぐに交差点が現れます。そこを渡れば、すぐ目の前が「薬師あいロード」。
ネーミングのセンスがちょっと気になりますけれど(主観)、ゆっくりと歩いてみれば、昔ながらの雰囲気を残した穏やかな商店街であることがわかるはず。
実をいうと、この通りには前から気になっていたお店が2軒あったんですよ。そのひとつが、ずずっと奥へ進むと右側に見えてくる「冨士見野」。
堂々とした風格のある、昔ながらの和菓子屋さんです。印象的なのは、買い物途中のお母さんなどが次々と立ち寄っては、お店の人と親しげに話をしたりしていること。
だから「地元に密着した和菓子屋さんなんだな」という印象しかなかったのですが、あるときショーウィンドウを見てみたら、意外なものを発見したのでした。
あんみつやおしること一緒に、ラーメンが並んでいるのです。
いわゆる甘味処のラーメンって、予想以上においしかったりするじゃないですか。少なくとも個人的にはそう感じていたので、これは入って確かめてみるべきだと決意したのでした。
店内は広々としていて、4人がけのテーブル席がズラリ。入り口左側にはレジがあり、お菓子を買う人もそこでお会計をするようです。
突き当たり奥は厨房になっており、その手前にお品書きが。
ほうほう、「田舎しるこ」「いそべ焼き」などと並んで、たしかに「ラーメン」「チャーシューめん」「餅入ラーメン」などが見えますねえ。
「ラーメン」と「餅入ラーメン」は「メン」なのに、どうして「チャーシューめん」だけ「めん」なのだろうと余計なことを考えつつも、ここは最初に心を射抜いた「チャーシューめん」と頼むことに。
と思っていたのですけれど、「玉子入ラーメン」ってやつもちょっと気になるじゃないですか。なりませんか? 僕はなったよ。
だから欲をかき、「チャーシューめんに玉子を入れてもらうことはできますか?」と聞いてみたところ、厨房の若旦那さんから「できます」との答え。ありがたい。では、それでお願いしましょう。
店内にはBGMもなくテレビもついていませんでしたが、厨房の方からうっすらとラジオの音が聞こえます。ちなみにニッポン放送。
そんなところも含め、おそば屋さんやラーメン屋さんとも違う、のんびりとしたいい空気が流れている印象です。なにをするでもなく、ただそこにいるだけで穏やかな雰囲気を楽しめるというか。
というわけでのんびりしていたら、やがて欲ばりメニューの「玉子入りチャーシューめん」が登場です。
丼のなかには、チャーシュー、メンマ、三つ葉、海苔、ナルト、刻みネギ、そして玉子が。海苔が雑な感じに置かれているところも含め、これはなかなか魅力的なルックスですなぁ。
レンゲの上に割り箸が置かれていて、コショウの小瓶がついてくるあたりからも、ラーメン屋さんのそれとは違うオリジナリティを感じます。
で、味のほうですが、鶏から出汁をとっていると思われる(違ったらすみません)スープは、見た目よりも遥かにスッキリしていますね。
そして麺は、鼻に抜けていく小麦の香りがとてもいい。食べた瞬間、「これは子どものころに食べたラーメンの味だ」と感じ、静かに感動してしまったのでした。
具材が多いので、チャーシューは2枚くらいしか見えていなかったのですが、箸を入れてみれば、下にたくさん隠れておりました。数えてみたら、切れはしもめて7枚も入ってたぞ。
もちろん、よく煮込まれていて味も文句なし。半熟の卵もいいアクセントになっているし、これはかなりレベルの高いラーメンであると実感できたのでした。さりげなく、こういうものを出せるお店ってすばらしいと思います。
帰り際、レジを担当していたお母さんに伺ったところ、創業は昭和9年なのだとか。
ってことは、今年で87年か。
そう考えると、地元に根づいているのはむしろ当然。ラーメンの味に間違いがないことも、また当然だと思えたのでした。
次回は、お菓子も買ってみることにしよう。
●冨士見野
住所:東京都中野区新井1-31-5
営業時間:10:00~20:00
定休日:月曜日(祝日、8のつく日など臨時営業あり)