いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、八王子の喫茶店「サントス」をご紹介。
アイスコーヒーは、最初から甘いタイプ
八王子駅北口を出たら左斜め前、「みさき通り」と「ジョイ五番街通り」との交差点からはじまる「西放射線ユーロード」を直進します。
この日は平日午後ということもあってか人通りも少なく、とても穏やかな雰囲気。八王子は駅前の繁華街ぐらいしか知らなかったので、なんとも新鮮です。
ぱらぱらと降り始めた雨を気にしながら10数分進んだら、やがて突き当たる甲州街道を渡って向こう側へ。
「みずき通り」という小さな道路に入り、コインパーキングを目印にしながら最初の十字路を左折すれば、周辺は人の気配もなくとても静か。
そんな、お店もほとんどない通り沿いのビルの一階に、ポツンとたたずんでいるのが「珈琲サントス」です。
スモークのかかったガラス扉や、メニューと謎の小物が並ぶショーケース、さらには店頭の植物などもいい味を醸し出しており、思わず心も躍っちゃいますねえ。
で、やや緊張しながらドアを開けると、まさに期待通りの、いや、それ以上にすばらしいお店だったのでした。
長く使われてきたんだろうなぁと想像できるテーブルと椅子が整然と並ぶ、ゆったりした空間。しかも右側の壁には大きなガラスが入っているので、さらに広く感じられます。
シャンデリアや照明も、決して派手ではないけれど上品ですね。
奥にはカウンター席もあって、突き当たりの食器棚にはグラスやカップがきれいに整列。清潔感のあるその並べ方を確認するだけで、お店の人の生真面目さがはっきりとわかります。
その横にはウイスキーが並んでいたりもするので、お酒も飲めるのかもしれませんね。コロナ禍のいまは難しいだろうけれど、こういうカウンターで飲んだりしたら、さぞかしいい気分だろうなぁ。
長い歳月を経てきているんだろうなと感じさせるものの、古びた印象は皆無。それどころか、掃除が行き届いており、店内はとても清潔です。
左の窓際の席に座ってメニューをチェックしてみれば、ナポリタンから中華丼まで食事のバリエーションも豊かですね。
「ショーユスパゲッティ」とか「ポークソティライス」とか、表記にもそそられてしまいます。
ただ、伺ったのはランチを終えたあとだったので、アイスコーヒーをいただくことに。
ちなみに時刻は14時過ぎ。ということもあってか他にお客さんはおらず、テレビのニュース番組の音だけが静かに聞こえています。
ところで、やがて届いたアイスコーヒーにはガムシロップがついていません。ってことは、最初から甘いタイプのやつか。
個人的にはアイスコーヒーもストレート派ではあるのですが、しかし、こういうところも純喫茶風ではありますよね。
甘いアイスコーヒーにミルクを入れるのなんて、ずいぶんひさしぶりだな。いただいてみれば、なんとも懐かしい味です。いわば、昔ながらの正統派。
学生時代、ちょっと緊張しながら好きな子とこういうアイスコーヒー飲んだりしたよなぁ……なんてことを八王子の純喫茶で思い出すことになろうとは。
やがてドアが開き、新聞屋さんが夕刊を届けにきました。受け取ったマスターはそれをホチキスでまとめ、慣れた手つきでマガジンラックに収めています。
そんな光景にすらホッとするし、いろいろな意味で落ち着ける店だな。
お会計のときに伺ったら、開店してから今年で49年なのだとか。後継がいるわけでもなく「僕で終わりです」とのことでしたが、できれば長く続けていただきたいものだと感じずにはいられなかったのでした。
●サントス
住所:東京都八王子市本町12-4
営業時間:8:00〜21:00
定休日:第3日曜日