いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、新宿の喫茶店「珈琲タイムス」をご紹介。
コーヒーとたばこが織りなす"タイムスっぽさ"
新宿駅の東南口を出て地上に降りると、すぐ真正面に以前ご紹介した食堂「長野屋」が見えます。つい立ち寄りたくなってしまうレトロ感がたまりませんが、今回はその裏手の路地へ。
お目当ては、最初の角を右に曲がるとすぐ右に見えてくる喫茶店。「珈琲タイムス」というお店です。
いや~実は、ここって僕にとっては不思議なくらい"近くて遠い存在"だったんですよね。駅からわずか2分だし、前を通り過ぎることも少なくなかったのですけれど、なかなか入る機会に恵まれなかったのです。
とくに理由はないんですけどね。
とはいえいつも繁盛しているので、「すみません、いま席が埋まっておりまして……」といわれたことも何度かあったな。
けど、そうなると余計に気になるじゃないですが。なんとしてでも行ってみたいと思うじゃないですか。思わない? 僕は思うよ。
ってことで、あまり混んでいなさそうな早めの時間帯、お昼前の11時あたりを狙ってみることにしたのでした。
ここは朝の8時から開いているんですけど、さすがに11時ならなんとかなるでしょ。
と、思いきや、予測はやや甘かったようです。いや、どうにかなりはしたんですけれど、店内へ足を踏み入れてみれば、すでにけっこうな人数のお客さんがすでにおりましてですね。
「考えてみれば、駅前の老舗喫茶なんだから当然かー」と思っていたら、「お好きな席へどうぞ」と声をかけていただけたので左奥のほうの空席へ。
それにしても、ビルのワンフロアをまるまる使っているだけあって、店内は予想以上にゆとりがあります。そして、なんともいい雰囲気。
レンガの壁、こげ茶色の柱、適度に煤けた天井、さりげなく品のあるシャンデリア、木のテーブルと椅子、飾られた絵など、ひとつひとつのものが時の流れを感じさせ、そして無理なく共存しているのです。
ちなみに完全喫煙者仕様のようで、お客さんの喫煙率はかなり高め。「たばこが吸えるから来ている」のであろう方も少なくないようなので、気になる人は気になっちゃうかな。
慣れればどうってことはありませんでしたけどね。
それにレトロな内装とたばこの煙、コーヒーの香り、そして小さく流れるジャズが見事に調和し、結果として"タイムスっぽさ"が生み出されているのも事実。
商談をするビジネスマン、下を向いて携帯ゲームに熱中する若者グループ、たばこをくゆらせながら読書をする女性など、それぞれが思い思いの時間を楽しんでいる姿を見ると、この店らしさが支持されていることがよくわかります。
さて、お昼前ということで軽く食べておこうかなと思い、ミックスサンドとアイスコーヒーをオーダーです。
なんてことのないミックスサンドって、昔ながらの喫茶店に入るとつい頼みたくなりませんか? きわめて普通だからこそ、なんとなく安心できるというか。
で、ほどなくお目見えしたミックスサンドは、思っていたとおりのオーソドックスな一品でした。驚くほどボリューム感があったり、必要以上におしゃれっぽかったりするのではなく、あくまで"普通のミックスサンド"。
とはいえ食べてみれば、手抜きをせずにきちんとつくられていることがはっきりとわかります。トマトとキュウリ、そしてタマゴとハムのサンドウィッチは、まさに昭和の味そのもの。
苦味の強いアイスコーヒーも、そんなミックスサンドとの相性は抜群。予想どおりの満足できる味でしたが、もっと暑くなったら、さらにおいしく感じるんだろうな。
すべてが調和しているからでしょうか、妙に落ち着いてしまい、食後は持ってきていた本の世界へ。タイムスでの読書タイムは、思いのほか快適だったのでした。
●珈琲タイムス
住所:東京都新宿区新宿3-35-11 タイムスビル1F
営業時間:8:00~20:00
定休日:無休