いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、西荻窪のイタリアン食堂「ポモドーロ」をご紹介。
ゆったり落ち着いた雰囲気も魅力のひとつ
西荻窪駅北口を出たら、すぐ目の前が伏見通り。のんびりとして空気が流れる、いかにも西荻らしい商店街です。
この通りを吉祥寺方面に進むと、以前ご紹介したことのある喫茶店「物豆奇」のもう少し先の左角に見えてくるのが、今回ご紹介する「ポモドーロ」。
僕の記憶が間違っていなければ、このお店ができたのは1981年のはずです。オープン当初に何度か伺ったことがあるのですが、それは隣の荻窪にルミネができた年。なぜかその2つが、記憶のなかでがっちり結びついているんですよね。
でも、そんなことまで記憶しているし、そもそも日常的に前を通り過ぎているにもかかわらず、もう何十年もご無沙汰していたわけです。中途半端に近いと、「いつでも行ける」みたいな気持ちになってしまってよくないですね。
けど、このパターン多すぎ。
ということで、このたびは数十年ぶりに足を運んでみたという流れ。
それにしても、あのころとまったく変わっていません。アイボリーの壁に、焦げ茶色の格子ガラス扉と窓、「ポモドーロ」と片仮名で書かれたロゴマークなどが、いかにも当時っぽい雰囲気。
決して派手ではないし、今風でもないけれど、時代の流れに左右されない普遍的なセンスのよさを感じさせるのです。
店内は正面奥にカウンター席があり、その向こう側が厨房。右に2卓、左に1卓、分厚い木のテーブルが並んでいす。同じく木製の椅子も含め、すべてが当時の記憶のまま。
ことばにしづらいような、不思議な懐かしさを強く感じたのは、あの時代の軽井沢にいくつかあった喫茶店にも共通する雰囲気を感じさせるからかもしれません。
伺ったのはランチタイムのピークを過ぎた13時ということで、その時点ではお客さんの姿はなし。ほどなく男性が、さらにしばらくすると常連さんらしき女性も入ってきましたが、喧騒とは無縁の空気が心地いいですね。
ちなみに店内には、「もう少し大きくてもいいんじゃない?」と感じるくらい小さな音量でジャズが流れています。
ランチメニューは「スパゲッティ」「スパゲッティセット」「Aランチ」「Bランチ」の4種類。どうでもいいけど、「スパゲティ」ではなくて「スパゲッティ」という表記が、なんとも昭和でこれまたいい感じ。
ともあれせっかくなので、「本日の日替わり料理(サラダ添え)、スパゲッティ、カップスープ、珈琲または紅茶」というラインナップのBランチをチョイス。スパゲッティはボロネーゼで、ドリンクはアイスコーヒーでお願いしました。
ほどなく運ばれてきたコンソメスープをいただきながら待っていると、やがてスパゲッティがお目見え。気をてらったところのない、きわめてオードソックスな見た目です。
アルデンテのスパゲティに絡んだソースも上品な味わいで、食べ進めるほどに老舗ならではの説得力が伝わってきます。やや地味かもしれないけれど、そこがいい。それでいい。それがいい。
そののち登場した「本日の日替わり料理」は、ポークのソテーでした。こちらも手抜きなしの見事な仕上がりで、肉の旨みがしっかりと凝縮されています。これまた、さすがのクオリティですね。
大きめのタンブラーになみなみと入ったアイスコーヒーも、苦味が心地よく爽快です。
「つかぬことをお聞きしますが、もしかしてこのお店ができたのは1981年ではありませんか?」
気になって仕方がなかったので、お勘定の際、冒頭で触れた開店年のことを奥様に尋ねてみました。
奥様が答えを確認するかのようにちらっと見ると、その視線の先にいらっしゃった調理中のご主人が黙ってうなずかれました、
やはり。
開店当時と同じように料理はおいしかったし、いろいろなことが腑に落ちたのでした。
●ポモドーロ
住所:東京都杉並区西荻北4-1-13
営業時間:月〜土12:00~16:00、18:00〜24:00、日・祝12:00~16:00、18:00〜22:00
定休日:火曜