いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、高円寺の喫茶店「あろうむ」をご紹介。

  • 高円寺の喫茶店「あろうむ」

この「遠くへ行きたい」を歌ってるのは誰?

高円寺南口のエトアール通りを環七方面に進み、宿鳳山高円寺というお寺を斜め左に見ながら「高円寺前」交差点を通るたび、いつも気になっていたお店があったのです。

  • 装飾物は多いのになぜか調和が

交差点右側、つまりお寺とは反対側に入って2本目の路地にたたずむ「あろうむ」という名の喫茶店。

なぜ気になっていたかって、そのあたりはもう住宅地だから。早い話が商売に向いていそうな場所ではなく(余計なお世話)。

もう何年も前からそんな思いを抱えていたので、いつかは行ってみなければと思っていたのでした。だから、たまたままた通りかかったある日にふと寄ってみたのは、僕にとってごくごく自然なことだったわけです。

  • 手描きっぽいロゴマークも魅力的

上階がアパートになっている建物の一階角。白い壁に茶色い格子ガラス扉、手描きっぽいデザインの看板が、いかにも昭和な感じです。右側には出窓もあるようですが、たくさんの植物で覆われています。

  • 水盆も渋い

植物が生い茂る洋風植木鉢の横に、和風の石灯籠が佇んでいたりするのですが、とくに違和感がないところが不思議。それらが一体となって、このお店独自の雰囲気をつくり出しているのです。

うーん、やっぱり気になるぜ。とはいえ、こんな静かな住宅地なのにお客さんは来るのだろうか?

などとドアの前で余計なことを考えていたら(怪しいし)、そんなこちらを気にするでもなく、60代くらいの女性がスタスタと軽快な足取りで店内へ。

明らかに常連さんですね。

  • 常連さんがご歓談

その勢いに引っぱられるようにドアを開けると、真正面から向かって左側のカウンターでは(その女性も含めた)3人の常連さんが親しげに話をしています。

いくつかある右側のテーブル席のひとつにもお客さんがいるし、予想以上に賑わっていますね。でも狭苦しく感じるほどではなく、店内にはゆったりとした空気が流れています。

  • 心地よい懐かしさがある店内

で、そんな空気に導かれるように、いちばん奥のテーブル席へ。

すぐにお水を持ってきてくださったママさんは、落ち着きがあり、適度に社交的。突然入ってきた僕を拒絶することもなく、それどころか接客はとても暖かです。

なるほど、ここはママさんの人柄が常連さんを集める店なのだな。

ところでコーヒーをオーダーしてひと息つくと、BGMに「遠くへ行きたい」が流れていることに気づきました。いうまでもなく、永六輔作詞、中村八大作曲の名曲です。いろんな人が歌っていますが、これが誰のヴァージョンなのか、いまいち思い出せないんですわ。よく聞く声なんだけどなー。

  • 出窓からは心地よい空気が

そこで音楽認識アプリのShazamをコソコソッと起動させてみたら、スマホの画面に現れたのはさだまさし。なるほどね。そのあともずっとさだまさしが流れていたので、ママさんがお好きなのかもしれません。

  • コーヒーカップもいい感じ

そんなことを考えているうちに運ばれてきたコーヒーは、民芸調のカップに入っていてどこか懐かしい感じ。さりげないセンスのよさが伺えます。

  • お菓子のサービスが

しかも苦味の深さがちょうどいいコーヒーをいただいていたら、「もらいもののお菓子があるので、どうぞ」というママさんの声が聞こえてきました。どうやら、サービスのお菓子を配っているようです。

そして同じように、僕のところにも。飛び込み客にさえ、さりげない気遣いができるって素敵だなぁ。

  • 壁はギャラリーに

なお店内はギャラリーにもなっており、この日は2人の作家の作品を展示していました。あとから入ってきてお客さんと話しをしていたのは、どうやらそのうちのひとりのようですね。

  • 壁入り口脇には“五つの小(こ)”

その人たち、それに常連さんも含め、同じ空間にいる人たちが少しずつつながっているような雰囲気。聞けばオープンは1984年だそうですが、長きにわたって営業を続けてこられたことには充分納得できます。

喫煙者OKではありますが息苦しさはなかったし、なにより居心地のよさが際立っている印象。とてもいい時間を過ごせました。

●あろうむ
住所:東京都杉並区高円寺南2-52-12 光コーポ1F
営業時間:8:00~16:00
定休日:日曜