いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、阿佐ヶ谷の和菓子店「ありん堂」をご紹介。
気になる和菓子屋さん
阿佐ヶ谷で和菓子といえば、以前ご紹介したことのある「うさぎや」が有名です。我が家でもよく利用しているのですが、うさぎやからの帰り道に、以前からちょっと気になる和菓子屋さんがあったのでした。
北口「スターロード」を抜けた先の路地を、荻窪方向に向かって直進した左側に見えてくる「ありん堂」がそれ。(こちらも前に紹介したことがある)クラシック喫茶「ヴィオロン」のはす向かいです。
なぜ気になるかって、そりゃもう昭和そのものの外観ですよ。
緑色の日よけの下には、青字に「ありん堂」と白く抜かれたのれん。すりガラスの入った引き戸と窓は、茶色い木製。
ひとつひとつの要素がかわいらしく、レトロなどということばでは表現し尽くせないほどの、深い味があるのです。
こういう古いお店のなかには、実質的に開店休業状態のところもあるじゃないですか。でも、ここはそういうタイプではないとお見受けした。
古いけれどもきちんと磨かれたショーケースには、できたての和菓子がずらりと並んでいるからです。
豆餅、柏餅、みそ柏餅、おはぎ、桜餅、うぐいす餅などなど、和菓子屋さんに置いておいてほしいお菓子がしっかり整列。ちなみに、この日伺ったのは13時半ごろだったのですが、すでに豆大福は売り切れていました。
つまり、固定ファンがいるということですね。
そればかりか、下のほうにはいなり、のり巻、太巻、詰め合わせも並んでいるし、赤飯も300g、500g、800g(売り切れ)、1キロと万全のバリエーション。
店内にはテーブルのようなものも見えますが、どうやら現在は使われていないようですね。でも、かつてはお菓子を楽しむお客さんの姿があったのでしょう。
そんなことすら想像させてくれるような、とてもいい雰囲気のお店であるわけです。
うさぎやからの帰り道に自転車でひゅーんと通り過ぎることが多かったのですけれど、よく見ればこれはただものではないぞ。
ってなわけで、ものは試しということで道明寺を注文。
用意をしてくださっているお父さんに聞いてみたところ、昭和50年から営業しているのだとか。ということは1975年だから、今年で46年目ということになりますね。
建物の風格を見れば納得という感じですが、駅から遠くはないとはいえ住宅街の一角といってもいいような場所。そんなロケーションで営業を続けてきたということは、それだけで評価に値する気がします。
帰宅後にいただいた道明寺は、何十年も変わらないのであろう正統派。つぶつぶした食感も心地よい餅米の木目の細かさ、餡のほどよい甘さ、桜の葉の塩漬けも、ちょうどいいアクセントです。
このお店のことは、もっと早くから気にかけておくべきだったなぁ。他のお菓子も、ぜひ食べてみたい。
また、いなりや太巻、赤飯なども気になるところですね。
いまさらながら、この路地を通る楽しみが増えたような気がしたのでした。
●ありん堂
住所:東京都杉並区阿佐ヶ谷北2-5-6
営業時間:9:00~21:00
定休日:木曜