いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、国分寺の中華食堂「淡淡」をご紹介。
約35年ぶりの「肉あんかけチャーハン」
八王子方面行きの中央線が国分寺駅に着く直前、進行方向右側、すなわち北口の新宿寄りに「千成ホテル」という看板が見えます。
近隣に大学などが多いだけあって、受験シーズンには受験生も利用するというビジネスホテル。決して派手ではないものの、外観がいかにもレトロなだけに、圧倒的な存在感があります。
なおポイントは、テナントが入った同ビル内の「味の名店街」の目立ちっぷりです。
正面に、
ビジネス
千成ホテル
味の名店街
と非常に目立つ文字看板が掲げられており、その真下には「肉あんかけチャーハン たんたん」と書かれたのれん看板が。
これがとっても目立つので、ホテルがメインなのか、肉あんかけチャーハンがメインなのか、よくわからないバランス感となっているのです。
なおホテルの入り口は、その横に申し訳なさそうにたたずんでいたりします。
なんとなくホテルがかわいそうに思えてくるほどですが、今回のお目当ては目立っているほう、すなわち肉あんかけチャーハンが有名な「淡淡(たんたん)」なのでした。
ラーメンもあるし、スタイル的には中華料理店ということになるのですが、どちらかといえば「中華食堂」と呼びたくなるようなお店。
実はお邪魔したのは学生時代以来なので、35年ぶりぐらいですね(もっとかな?)。でも、雰囲気は当時からあまり変わっていないような気がします。
店内右側には厨房を囲むようにカウンター席があり、左側と、ドア右側にも席がズラリ。壁に学生の写真がたくさん貼ってあるところからもわかるとおり、ガッツリ具合が近隣の学生から支持されてきた店でもあります。
名物の「肉あんかけチャーハン」も、かなりのボリュームだったと記憶しています。そのためメニューを見ているときにも、「いいか、学生時代とは違うんだぞ。本当に食べ切れるのか?」と心の声が聞こえてきたのですが、とはいえ頼まないわけにはいかないでしょ。ひさしぶりなんだから。
ってなわけで「肉あんかけチャーハン」を……と思ったのですけれど、せっかくだからと欲を張り、目玉焼きが乗った「肉あんかけチャーハンエッグ」を注文です。
混雑するお昼時は避けようと思って11時の開店時に伺ったため、店内にはまだお客さんの姿はなし。カウンター席に座る僕に背を向ける形で、ご主人が軽快に鍋を振りはじめました。
やがて現れた大盛りのチャーハンに、肉あんかけがたっぷりとかけられます。それだけでもかなりのインパクトなのですが、さらに目玉焼きが2個も乗るわけです。
見るとご主人、強めの火で卵を焼きながら、もう片方の手に持ったおたまで肉あんかけを何度も平く整えています。なるほど、そうしないと目玉焼きが乗っからないものね。
事実、目の前に差し出された肉あんかけチャーハンエッグの皿では、いまにもずり落ちていきそうな目玉焼きがギリギリのバランスを保っている状態。しかも真横から見るとわかるのですが、刺さったレンゲはほとんど垂直を保っていたりします。
しかし、懐かしすぎ。
ベースのチャーハンは、薄すぎもせず、濃すぎもせず、ちょうどいい味つけ。その上にかかった肉餡は、ほのかな甘みを感じさせる濃厚さ。そこに半熟卵の黄身が柔らかく絡むので、味が少しずつ変化していきます。
ものすごくボリュームがあり、しかも学生時代にくらべれば食欲は落ちているはずなのに、どんどん食べられてしまうという。……これは恐ろしい食べ物だわ。でも、やっぱり大好きだわ。
ところで、ものすごく印象的だったのは、入り口の天井近くにあるテレビです(4枚目の写真参照)。なぜって、ずーっとアニメの「それいけ! アンパンマン」が流れていたから。
かわいいじゃねえか。
いや、“つくるおじさん”と“食べるおじさん”しかいない店内にアンパンマンの平和な会話がやさしく響く店内って、
シュールじゃねえか。
あれはどういうことだったんですかね? ご主人、アンパンマンのファンなんですかね?
「30数年ぶりで来ました」と伝えたらとても喜んでくださったので、ついでに聞いてみればよかった。「アンパンマン、好きなんですか?」って。
●淡淡
住所:東京都国分寺市本町2-4-5 千成ホテル1F
営業時間:11:00~22:00(中休みあり)
定休日:日曜日