いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、武蔵境の「CAFÉ BAR JUN」をご紹介。
地味なのに不思議な存在感を放つ、住宅地の気になる店
三鷹のはずれに住んでいたころ、車で通り過ぎるたび気になっていた店がありました。
最寄り駅は武蔵境駅ということになるのでしょうが、歩けばゆうに10分はかかりそう。連雀通りという道沿いにあるのですが、近隣はお店のほとんどない住宅地。
そんななかで異彩を放っているような印象があったため、どうにも気になって仕方がなかったのです。
二階建ての建物は決して新しくなく、車で通り過ぎた程度では店内を確認しづらいのですが、いつも営業はしている様子ではありました。しかし、少なくとも外側から見た限りではほとんど人の気配を感じません。
だから、余計に気になっていたわけです。でも、そこまで気にさせるのであれば、「CAFÉ BAR JUN」という名のその店は、それでパワーのある場所だといえるのかもしれません。
そこで今回は、遅まきながらお邪魔してみて、積年の疑問を解消することにしたのでした。
外観はシンプルながら、よく見れば手が込んだつくりになっています。アイボリーの壁に掲げられた"JUN"という店名のフォントも、昔っぽくていい感じ。でも「お持ち帰り出来ます」「日替わりランチ」「汁なし坦々麺」と、店頭に並ぶ原色系ののぼりのほうが圧倒的に目立っちゃってますね。
つまり"レトロ"と"派手"がごっちゃになっているので、ややアンバランスな気も。
ところが近づいてよく見れば、ランチメニュー看板はていねいに手書きされており、「CCAFÉBAR JUNで検索!!」とフェイスブックページへの誘導アピールも。
つまり、いろいろと「やる気」を感じさせるわけです。
でも、内部はどうなっているんだろう? 一抹の不安を抱えながらドアを開けたところ、結果的には2つの意味で驚くことになったのでした。
まずは「広さ」。外からは狭いスナック風にしか見えなかったのですけれど、意外や奥行きがあってとても広いのです。
入ってすぐ左には、4、5卓のテーブル席がある広いスペース。席は十分に離れているため、密になる心配も皆無です。さらに奥には、テーブル席が数卓と、L字型のカウンター。ちょっとしたパーティーくらいなら、余裕で開けてしまいそう。
そしてもうひとつ驚かされたのは、とても繁盛していたこと。手前のスペースのテーブル席を選んだのですが、その時点で主婦3人組と、男性の1人客が。奥のスペースにも数人がいたようですし、13時半過ぎとは思えないほど活気があるのです。
ともあれ、ランチメニューだという「メキシカンハンバーグプレート」を注文してみましょう。
ほどなくカップのコンソメスープに続いて登場したそれは、見栄えもなかなか。メキシカンソースが格子状にかかったハンバーグ、フライドポテト、サラダ、ライスがワンプレートになっており、食欲をそそります。
しかもジューシーなハンバーグは、しっかりつくり込まれた印象。じゅわっと滲み出てきた肉汁がほどよい絡みのソースと混ざり合い、奥深い味わいです。フライドポテトもカリッと揚げたてだし、サラダの鮮度も申し分なし。
いや~、これはいい意味で予想を裏切られたな。料理のクオリティはもちろんのこと、広告に顕著な"やる気"も含め、きちんとやるべきことをやっているとはっきりわかるから。
こんなに満足できるなら、もっと早くお邪魔すればよかった。
なお特筆すべきもうひとつのポイントは、BGMが1990年代のR&Bだったことです。有線放送だとは思いますが、まさかキース・スウェット&ジャッキー・マッギーの"Make It Last Forever"を聴きながらハンバーグをかじることになろうとは。
帰りがけにお聞きしてみたところ、お店は「その時々で形を変えながら」昭和の時代から続いているということで、R&BのBGMはママさんの趣味なのだそうです。
伺ってみないとわからないことって、いろいろあるものですね。
●CAFÉ BAR JUN
住所:東京都三鷹市井口1-17-29
営業時間:ランチ・カフェ:11:30~14:30(L.O.14:00)
ダイニング・バー:18:00~24:00(L.O.23:15)
定休日:日曜日・祝日