いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、東小金井の洋食店「キッチンブラウン」です。
自慢のデミグラスソースを使った料理のお味は……?
吉祥寺から、立川方向へ3駅。新宿からであれば20数分で到着する東小金井は、なかなか地味な駅であります(すみません)。それに考えてみると、個人的には北口で降りたことがほとんどないような気がします。以前ご紹介した中華料理店「宝華」があるので、南口は何度も利用しているのですけれど。
とはいえ「ヒガコ」の愛称で親しまれるこの街には、何十年も前から気になっていたお店があるのです。
北口に出てバスロータリーを抜けた「地蔵通り」を、ドラッグストアの「トモズ」を目印にしつつ左折。数分進むと、角にコメダ珈琲店がある「緑町一丁目」交差点にぶつかります。
そこを右折、すなわち駅を背にして進むと、ほどなく右側に見えてくるのが今回ご紹介する洋食店、「キッチンブラウン」です。
建物が新しいため見た目から昭和っぽさは感じられないものの、実は1973年創業の老舗店。あとからお聞きしたところによると、以前は近辺の別の場所にあり、10年ほど前に移転されたのだそうです。
人気店であるだけに行列ができると聞いていたのですが、平日の13時半すぎだったせいか、すんなり入ることができました。入店後に少し待たされましたけれど、それもほんのわずかな時間。
店内は、すぐ目の前に3席のカウンター。右側には2卓の2人席があり、奥には大きなテーブル席も見えます。カウンターの向こうにある開放的な厨房には、忙しそうに動きまわるマスターの姿。ホール担当の奥様も、やはり機敏に動かれています。
マスターは、都心の有名店で働いていた経験をお持ちだそう。その実績は当然ながらメニューにも反映されており、自慢のデミグラスソースをふんだんに使ったビーフシチューやハンバーグが人気なのだとか。
そこで数あるメニューのなかから、両方を味わえる「ハンバーグビーフシチュー サラダ、ライス付き」をオーダーしました。
コンパクトにまとめられた店内は掃除が行き届いており清潔で、壁には芸能人のサインがズラリ。テレビで取り上げられたことも少なくないようです。でも、そういうことを必要以上にアピールしていないところに好感が持てますね。
お客さんの層も、学生から60代くらいの方まで広範。近くにある法政大学の学生数人が、奥の席で授業のことを話していたりして、なんだか懐かしく感じたりも。コロナの影響で学生も楽ではなさそうですが、このお店が近くにあることはラッキーというべきかもしれませんね。
ところでコロナといえば、一定時間ごとにドアを開けて換気していらっしゃるのもありがたいところ。もともと座席のスペースに余裕があることもあり、安心して食事ができそうです。
などと思いを巡らせながら、トマトとレタスのサラダをいただいていると、いよいよお待ちかねの「ハンバーグビーフシチュー」が運ばれてきました。
ジュージューと音を立てる鉄板に、見るからに柔らかそうな牛肉が魅力的なビーフシチュー。その向こうには、溶けたチーズも食欲をそそる肉厚のハンバーグ。スパゲティやにんじんのグラッセ、ブロッコリーのソテー、ポテト、コーンと、つけ合わせもたっぷりです。
ふんわりまとまっているハンバーグは食感が心地よく、もちろん、デミグラスソースとの相性も抜群。そんなデミグラスソースのポテンシャルが活かされたビーフシチューも、もちろん文句なし。口のなかでホロホロと溶けるくらいに煮込まれた牛肉の味を、ソースが見事に引き立てています。
デミグラスソースの味が濃い目なので、ごはんがぐんぐん進んでしまいます。しかも、にんじんのグラッセの甘みや、ホクホクとしたポテトのシンプルな味わいがバランスを整えてくれるため、変化に満ちていて飽きることがありません。
つまり、食べることの楽しさを再認識させてくれるような魅力に満ちているのです。子どもから大人までが大好きなデミグラスソースの持ち味を、心おきなく楽しめる素晴らしいお店。ぜひまた伺ってみたいと強く感じたのでした。
行列は好きじゃないけど、その先にこれが待っていてくれるなら並びがいもあろうというものですしね。
●キッチンブラウン
住所:東京都小金井市梶野町5-6-11
営業時間:11:45~14:00/17:00~20:00
定休日:木曜/第3水曜