いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、八王子の純喫茶「田園」です。

  • 王道の純喫茶「「田園」(八王子)


八王子の細い通りを抜けて

中央線の西側、八王子駅の北口を出たら左へ。交番脇のパチンコ店と金券ショップの間に、ともすると見落としてしまいそうな細い通路があります。

  • 右の写真に見えるビルとビルの間へ

そこを進むと、居酒屋などの飲食店が点在する裏通り。すぐ右側に、緑色の看板が見えてきます。そして石で囲まれたエントランスの奥にある階段をのぼったら、2階に待ち構えているのが今回の目的地「田園」です。

  • 左側の階段を上がって2階へ

表の看板には「café 茶房田園」と書かれており、左下のプレートと右下の立て看板には「純喫茶 田園」との表記があるので、果たしてカフェなのか茶房なのか純喫茶なのかと迷いそうになりますね。

  • 「純喫茶 田園」が正式名称のよう

でも、大きなガラスの入った木製のドアを押して店内に足を踏み入れれば、まさしく純喫茶であることがわかるはず。というよりも、イメージどおりの純喫茶なのでうれしくなってくるくらいです。

  • 広々として落ち着いた店内

昨今のネット記事などには、「珈琲専門店」まで純喫茶扱いしているものが散見されます。純喫茶の定義は「お酒を出さない"純粋な喫茶店"」なので間違いではないのですけれど、珈琲専門店と一緒にできるものではないと感じるんですよね。

具体的にいえば、"昭和チックなレトロ感"が不可欠であるようにも思えるのです。もちろん主観に過ぎないのですが、少なくとも「田園」は、そんな王道の純喫茶。

ウェイトレスの女性の「お好きな席へどうぞ」という声を聞きながら、店内の様子を見渡しやすそうな左奥の席へ。

ボックス席が並ぶ店内は思った以上に広く、入り口から向かって右側には大きな窓があります。お客さんは、その近くの席に、こちらに背を向けて座るサラリーマンがひとりだけ。

  • 長居したくなるボックス席

そんなこともあり、ポール・モーリアのようなイージーリスニング音楽が小さく聞こえる店内には静かな空気が流れています。

"ザ・昭和"なスパゲティはボリュームも満点

さて、各種ピラフからスパゲティまで、なかなかの充実度を見せるランチメニューのなかから、ミートソースセットをチョイス。ドリンクはアイスコーヒーにしました。

小さなカップに入ったコンソメスープをいただきながら待っていると、具材を炒める音が聞こえてきました。70代とおぼしきマスターは、厨房で調理に専念しているようです。

そしてほどなく登場したミートソースは、サウザンアイランドドレッシングのかかったサラダと一緒のワンプレート。ということもあって最初は少なめにも見えたのですが、実はなかなかのボリュームでした。

  • 昔ながらのミートソース

スパゲティは、マッシュルームと一緒に炒められており、その過程でブラックペッパーが加えられていることがわかります。ちなみにアルデンテとは対極に位置する、やや柔らかめの仕上がり。

ミートソースもきわめてオーソドックスですし、まさに昔ながら。昭和のデパートの大食堂にあったミートソーススパゲティといった印象です。

  • けっこうボリュームがあります

進化を遂げた現代風のパスタも魅力的ですけれど、こういう"ザ・昭和"なスパゲティも強い説得力を感じさせてくれますね。

食べ終えてアイスコーヒーを飲んでいたら、老齢の女性が来店し、慣れた様子で席につきました。「いつもの席に座る」という感じで迷いがなかったので、きっと常連なのでしょう。

それどころか、ウェイトレスさんに「昨日はエビピラフだったから、今日は違うものにしよう」などと話す声が聞こえてきます。ということは、ひょっとして毎日通っていらっしゃるのでしょうか?

でもたしかに、近隣に住む常連さんにとっては居心地が抜群にいいのでしょうね。初めてお邪魔した僕にも、なんとなくそれがわかりました。

  • 食後にはアイスコーヒーを


●田園
住所:東京都八王子市旭町2-7
営業時間:9:00~20:00
定休日:日曜