いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、三鷹のレストラン「ブルボン」です。
「今度、あの店を紹介してください」と知人からリクエストが届いたのは、ほんの少し前のこと。そのお店が、ずっと気になっていたのだそうです。
ところが偶然にも、それは「近いうちに行こう」と決めていた店だったのでした。僕以外にもあの店を気にかけている人がいたというのは、充分に納得できる話。見るからに古いのですが、不思議な存在感を放っているだけに。
ということで、行ってまいりました。「ブルボン」という名のその店へ。
豊富すぎるメニューのなかから選んだのは……?
三鷹駅の北口を出て、中町新道を吉祥寺方面へ。そう、5分ほど進んだ右側に、以前ご紹介した「コーヒー&レストラン プリモ」がある通りです。ただしブルボンは、もっと駅寄りの左側。
20年以上前からずっと気になっていたのですが、実はずっと喫茶店だろうと思っていたのです。しかし、青い日よけ看板には「レストラン」との表記が。なるほど、店頭に出ている手書きメニューを確認する限り、たしかに料理のバリエーションが豊富ですね……いや、豊富すぎます。
カレーライス、ピラフ、オムライスなどの定番はもちろんのこと、なかなか見かけないポークチャップや、果ては「うな玉丼」まで。節操がな……いや、なんでもできちゃうんですね。
定食類だって18種類も。「日替り定食」以外は「生姜焼定」という感じで"食"の字が省かれていますが、そりゃまぁこれだけあれば、いちいち書くのが面倒にもなりますわな。
ちなみに「日替り定食」と違いがあるのか疑問ではあったのですが、この日のサービスランチは「Aチキン竜田揚げ定」「Bミートボール定」「C肉野菜炒め」の3種でした。
いや~、もう、この手書き攻勢を目の当たりにするだけでうれしくなってきてしまいます。この店、好きだ。
おいしいでーす
ランチ 650円
スパ、ピラフ、カレー 500円
ドリンク100円でーす
なんて書かれたんじゃ、「期待しまーす」と言いたくなっちゃうじゃないですか(僕はなるぞ)。
でもなんとなく、こういう昔ながらのレストランでは、ミートソースを食べてみたい気がしたのです。なので「ミートソーススパくださーい」と言おうと思ってお邪魔したのですけれど、予定は大きく変更されることになったのでした。
ドア脇のテーブル席に着いたら、お水を持ってきてくださった老齢のマスターが「お食事ですか? きょうのランチはチキン竜田揚げかミートボールか肉野菜炒めです」と、呪文のように"定食前提"のアプローチをしてくるから。
別に強制されているわけではないのですが、なんとなく「ミートソーススパくださーい」とは言いにくくなってしまい(小心)、「じゃあ、ミートボール定食ください」と、ミートソースに近そうな(気もする)一品を選んだのでした。
オーダーを聞いたマスターはカウンターに用意してあったバナナを慣れた手つきで半分ほどカットし、壁側の棚から正方形の重箱を引き出します。
お、先日の武蔵境「オズの魔法使」に続き、ここも重箱仕様ですか。三鷹~武蔵境あたりのエリアでは、定食には重箱が常識なの? (そんなことはないね)。
13時半の店内にはAMラジオが流れていて、ひとりだけいたお客さんはスマホに話しかけ、なにかを検索しています。静かになったと思ったらまた話し始めたりしたので、すごく知りたいことがあったのでしょう。
ただでさえ三鷹の北口(地理的には武蔵野市)には南口とは違った穏やかさがあるのですが、このお店は、さらに時がゆっくり流れているような印象。
さて、登場したミートボール定は、ミートボール、煮物、お浸し、ポテトサラダ、たくあん、バナナ、ご飯、わかめの味噌汁と、なかなかのボリュームです。
ミートボールのソースが甘めではあったけれど、ひとつひとつが明らかに手づくりなので、食べ進めていると、なんとなくホッとできるのです。看板に偽りなく「おいしいでーす」。
帰りがけにお聞きしたら、昭和38年から営業されているのだそうです。ということは、前回の東京五輪より歴史が古いわけですね。
気になっていたと言いながら、どうしていままで通り過ぎていたんだろう? こんなにゆったりできるなら、もっと早く伺うんだった。
というわけで、「次回は"ミートソーススパ"を頼むぞ」と心に誓ったのでした。
●ブルボン
住所:東京都武蔵野市中町1-20-10
営業時間:[月~金]5:30~18:00 [土]9:00~18:00
定休日:日曜・祝日