いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、武蔵境の喫茶店「オズの魔法使」です。

  • 喫茶店「オズの魔法使」(武蔵境)


ゆるさを感じる店名に導かれて

かつて住んでいた三鷹の家は上連雀9丁目というところにあって、位置的には三鷹と武蔵境の中間くらい。なので武蔵境は、車や自転車で日常的に通る場所でもありました。大きなイトーヨーカドーにもお世話になったなー。

そのころから気になっていて、でも、なかなか入る機会がなかったのが、今回ご紹介する「オズの魔法使」。以前ご紹介した「にながわ」より駅から一本離れた、天文台通り沿いにある喫茶店です。

なにが気になったかって、やっぱりその名前ですよ。「オズの魔法使い」ではなく、「オズの魔法使」。「い」が抜けていることにさしたる意味はないのでしょうが、そんなゆるさ、レトロそのものの外観などから、昭和好きを引きつけてやまない魅力を感じたのです。

  • ロゴマークにもレトロ感

白い壁に木製のドア、なぜかその脇にはタヌキの置物、外されていないシャッターの中柱、そして時代を感じさせるロゴマークなど、いろいろな意味で味わいたっぷり。

しかもドア横にかけられた木製メニュープレートに目をやると、そこには目を引く一品が。

魔法使弁当(味噌汁付) ¥880

  • 心を奪うメニューがそこに

その名称からは、どんな弁当なのかまったく想像がつきません。しかも味噌汁って、魔法使いっぽくない。これ、気にするなといわれても気になっちゃいますよね。

そこで、どんなものなのかを明らかにしてみようと決心したのでした。

「魔法使弁当」の正体やいかに

店内にはゆとりがあり、光が差し込む右側部分にはソファと椅子、テーブルが並び、どことなくスナック風でもあります。コロナ対策の透明プレートも完備されていて、感染対策もばっちり。

なお中央部分には富士山の絵が飾ってあるのですが、よく見るとジグソーパズルですね。そうか、完成させたのか。

  • 富士山の絵は、完成したジグソーパズル

左側に2卓あるテーブル席の手前側に座ってからチェックすると、奥のカウンターにも椅子が見えます。入り口に「パーティ、コンパ承ります」と書いてありましたが、たしかにこれなら大人数のパーティにも対応できるでしょう(関係ないけど、「コンパ」って懐かしい)。

値段ごとに分けられたランチタイムメニューは、そのバリエーションにビックリ。これだけいろいろなものがあるなら、毎日通っても飽きることがない気がします。お昼前ということでまだお客さんはいませんでしたけれど、これなら地元の人の利用率は高そう。

で、中央の880円コーナーに……ありました、「魔法使い弁当」(こちらは「い」が入ってますね)。ってことで、もちろん迷わずオーダー。ドリンクはアイスティーのストレートで。

  • メニューの表記は「魔法使い弁当」

BGMは、おそらく有線放送だと思われるジャズ。奥の厨房からは、奥様がご主人にオーダーを伝える声が聞こえてきて、ほどなくそこに調理する音が加わります。のんびりとしたムードは、武蔵境の街の空気に通じるものがあるかもしれないなあ。

さて、やがて登場した魔法使い弁当は、こちらの想像を大きく上回るものでありました。なにしろ横長のお重なのですから。しかも、その形がちょっと変わっています。

  • まさかのお重が登場

右側がおかずのスペースで、左側がごはん。そして真ん中に、味噌汁の入った四角いお椀が収められているのです。その後ろにはたくあんがあり、すべてが整然と並んでいる印象。こういう形のお重は初めて見ました。

  • 珍しくも機能的な構造

それにしてもボリュームがあります。おかずは豚肉のソテー、その下に敷かれたキャベツ、卵焼き、マカロニサラダ、豆やこんにゃくの入った煮物とバラエティ豊か。「次はどれを食べようか」と、"食べる楽しみ"を味わえます。

  • おかずもたっぷり

それから、印象的だったのがごはん。というのも、刻み海苔がかかった白米に、適量の醤油がかかっているのです。その味が思い出させてくれるのは、子どものころに食べたお弁当。たしかに、こうじゃなくっちゃね。

  • 醤油がかかった懐かしい味

もちろん味噌汁もアツアツで、全体的に配慮が行き届いているように思えます。これで880円なら、コスパは非常によろしいですね。

帰り際に尋ねてみたら、今年で42年目なのだとか。つまりは1978年創業ということで、言われてみればロゴマークのデザインからも、70年代後半の雰囲気を感じることができます。

いずれにしても重要なポイントは、42年もこの地で営業を続けてきたという実績。手の込んだ魔法使い弁当からも感じられる真摯な姿勢あってこそ、地域の方々に支えられてこられたのでしょう。

  • 食後のドリンクはアイスティーをオーダー


●オズの魔法使
住所:東京都武蔵野市境南町3-10-5
営業時間:11:00~14:00、18:00~22:00
定休日:月曜