いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、中野の喫茶店「喫茶 絵夢」です。

  • 「喫茶 絵夢」(中野)


中野ブロードウェイ内で長年営む喫茶へ

さて今回は、中野にある「喫茶 絵夢(えむ)」というお店をご紹介したいと思います。

丸くアールのついた木製の窓やドアが印象的な外観、そして店名など、さまざまな要素が昭和を感じさせてくれるお店だと思いませんか?

  • いかにも"昭和"な外観

でも、写真に写っている床の材質を見て、「あれ?」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。「いかにも商店街沿いの路面店という雰囲気だけど、屋外ではないんじゃない?」と。

そうなんです。実はこのお店、アニメを筆頭とするポップカルチャーの拠点として有名な「中野ブロードウェイ」のなかにあるのです。

ちなみにブロードウェイといえば、中野駅北口から「サンモール」というアーケード商店街を進んだ突き当たりにある南口を利用するのが一般的。ただしこのお店へ行く場合はその真裏、早稲田通り側の北口から入ったほうがわかりやすいと思います。

  • こちらが早稲田通り沿いの「北口

アドアーズ近くの階段を、2階まで上がってすぐ。「ブロードウェイ通り」の端っこですからね。あ、そういえばブロードウェイは、1階からエスカレーターに乗ると2階を通り越して3階に行ってしまうため注意が必要ですよ。

  • この階段を上へ

いずれにしても、カルチャー的に濃い店が密集するなか、別な意味での濃さを静かに放つこういったお店までもが同居しているあたり、なかなかエキセントリックです。

店内に入ると、右側の狭い厨房スペースにはご主人の姿。カウンター席はなくすべてテーブル席で、つくりつけになった壁側のシートには、手づくりっぽいクッションが並んでいます。

  • ブロードウェイの中とは思えない雰囲気

厨房側の奥の席に座って店内を見渡すと、いわさきちひろの水彩画(の複製)がたくさん画鋲で貼られていたり、柱のあたりにはアコースティックギターがかかっていたり、なんとも懐かしい雰囲気。

まるで、1970年代の喫茶店にタイムスリップしたような感じです。

けれど「2020年なんだよなぁ」と思わずにいられなかったのは、お水を持ってきてくださった奥様が、テレビから聞こえてくる新型コロナウイルスの話題を引き合いに出して「きょうも感染者が増えたんだって」と話しかけてこられたから。

初めて交わすのが新型コロナウイルス関連の話題だったというあたり、なんとも複雑な心境だったわけです。

とはいえ、まるで古い知り合いのように自然に話しかけてくださったのはうれしいことですね。

アイスティーを注文し、待っている間に壁のメニューをチェック。「スパゲティ(ナポリ)」という表記がかわいいなあ。

やきそば  650
やきうどん 650

と書いてあるすぐ横に、

やきうどん 700
やきそば  700

とあるのが謎ですが、細かいことは言いますまい。なお、しょうが焼きから焼き魚まで、定食類も充実していますね。昼食後だったのでおなかは空いていなかったのですが、この雰囲気のなかでシャケとご飯などいただいたら、おじいちゃんおばあちゃんの家へ行ったときのような気持ちになれるかも。

  • ホットケーキから焼魚定食まで

あらかじめミルクが入っているアイスティーも、その普通さがいい感じ。とりたてて特徴があるわけでもない普通のアイスミルクティーなのですが、だからホッとできるのかもしれません。

  • いたって"普通"なアイスミルクティー

ふと目の前の入り口に目をやると、いかにもディープなブロードウェイらしいサブカルチックな人が通り過ぎていったり。これは不思議なシチュエーション。

  • 暖簾の向こうは人の行き交う通路が

聞けば、ブロードウェイ開業当時から営業を続けているのだとか。店舗とマンションが同居した最新の建物としてブロードウェイが誕生したのは、高度経済成長期まっただなかの1966年ですから、今年で54年目ということになります。

つまり、サブカルチャーの拠点になるよりずっと前から、ブロードウェイを見てきたということなんですね。

なお、ご主人が「絵画」と「夢」がお好きだからこの店名になったのだそうです。ロマンチストですね。


●絵夢
住所:東京都中野区5-52-15 中野ブロードウェイ2F
営業時間:11:00~21:00
定休日:不定休