いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、阿佐ヶ谷の中華料理店「和佐家」です。

  • 時代の変遷に合わせて甘味処から中華料理へ「和佐家」(阿佐ヶ谷)(写真:マイナビニュース)

    時代の変遷に合わせて甘味処から中華料理へ「和佐家」(阿佐ヶ谷)


夫婦が辿ったお店の背景とは

厳密にいえば、最寄りの駅は東京メトロ丸の内線の南阿佐ヶ谷です。中央線の阿佐ヶ谷駅からだと少し歩くことになりますが、とはいえ阿佐ヶ谷駅と青梅街道を結ぶ中杉通りは、ちょっとした散歩に最適なロケーション。

ですから、路面店を眺めながら歩いてみるのも楽しいかもしれません。それはともかく、杉並区役所からほど近い青梅街道沿いに、今回ご紹介する「和佐家」はあります。

いわゆる町の中華屋さん。僕は「町中華」ということばが苦手なので(好みの問題)勝手に「B中華」という呼び名を使っているのですが、つまりは肩肘を張る必要もなく、いい意味でB級でもある中華屋さんです。

かつては甘味処で、そこは奥様のご実家。時代の変遷とともにこの業態に行き着いたのだとか。以来30年以上にわたり、ご夫婦で切り盛りされています。

奥様が和子さんで、そのお父さんが佐太郎さんだったので「和佐家(かずさや)」。ちなみにキビキビと料理をつくってくださるご主人の英世は、元駅員さんという経歴の持ち主でもあります。

  • ご夫婦で切り盛りされている

店内はL字型のカウンターと、4人がけのテーブルがひとつ。決して広くはありませんが、行列こそできないもののお客さんが絶えることのない、まさに地元から愛されるお店。

  • 青梅街道沿いなので入りやすい

お昼どきをちょっと過ぎていたこの日も、近隣の会社のOLさんがお持ち帰りを注文しに訪れたりしていました。

僕はといえば、まずはビールと「ニンニクなしニラ餃子」を注文。

  • ビールはキリン、アサヒ、エビスの3種

そうなんです。ここ、餃子も「和佐家特製スタミナ餃子」とニラ餃子の2種類があるのです。ニンニクの効いたスタミナ餃子もいいけれど、仕事中でにおいが気になるという場合はニラ餃子がおすすめ。ニラがたっぷり入っていて、ビールとの相性も絶妙です。

やっぱり落ち着くなー。

  • ニラたっぷりの「ニンニクなしニラ餃子」

で、ビールが少なくなってきたころにもう一品いただこうと思ったのですが、この日はとても暑かったのですよねー。そこで食べ慣れたラーメンではなく、前から気になっていた「ざるラーメン」と「半チャーハン」のセットにしてみました。

料理だけじゃないもうひとつの魅力

先にきた半チャーハンはしっとり系で、量的にもちょうどいい感じ。ビールのつまみにもなってしまうという、なかなかの強者です。

  • ちょうどいい量の「半チャーハン」

そして、そんなチャーハンを食べ終えようとしているころ、いいタイミングでざるラーメンが登場。

  • 「ざるラーメン」は夏にピッタリ

メニュープレートに書かれている「のどごしさわやか」というコピーのとおり、プリプリとした中太麺は冷たく絞められていてとてもおいしい。

お聞きしたところ、もう何十年も付き合いのある埼玉県の「玉藻製麺」という製麺所の麺を使っているのだそうです。

「だからうまいんだよ」とご主人の英世さんが麺のおいしさを強調しますが、いやいや、おいしいのは麺だけではありません。特製の出汁を使用したつけ汁も、キリッと酸味が効いていて爽やか。薬味もいいアクセントになっているし、これは食欲が減退しがちな夏に最適です。

ところで味とおふたりの人柄に加え、もうひとつの魅力がこのお店にはあります。いつも厨房がピカピカに磨かれていて、とても清潔だということ。

それもそのはずで、見ていると英世さんは一品つくり終えるごとに厨房をていねいに磨いているのです。そこまでが料理のプロセスだといっても過言ではないかもしれません。

  • ピカピカの厨房に安心感

些細なことではありますが、古いお店なのに掃除が行き届いているって非常に魅力的。とても大切なことだし、お客さん側から見ても安心感がありますよね。

英世さんが今年で76歳、和子さんも3歳歳下。息子さんが2人いるものの、継がせる気はないそう。しかも日曜日を除けば昼休憩なしで11時から20時まで店を開けているのですから、決して楽ではないでしょう。

でも、地味かもしれないけれど誠実なお店であるだけに、できれば少しでも長く続けてほしいものです。


●和佐家
住所:東京都杉並区阿佐谷南3-10-2
営業時間:11:00~20:00
定休日:日曜日