いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、高尾の喫茶店「おしゃれとコーヒー オルム」です。
ローカル商業ビルの魅力に誘われて
中央線沿線で育った人の多くは、高尾と聞けば遠足を思い出すのではないでしょうか? 高尾山は御岳山と並び、小学生の遠足に欠かせない定番スポットだったからです(いまはどうなのかな?)。
とはいえ当然ながら、高尾には山しかないわけではありません。住宅地があって人が暮らしている以上は、ちゃんと住宅地も商店街もあるわけです。
今回足を運んでみた「おしゃれとコーヒー オルム」も、高尾名店街というビルのなかのお店。入り口を入ると左手に階段があり、「レストラン ファッションフロア」という表示が出ています。
レストランとファッションではミスマッチすぎないかという意見も出そうですが、こういうローカルな商業ビルって、ツッコミどころの多さもまた魅力。
2階に上がると、なんともいい感じの空間が広がっています。狭くはないスペースに、メガネ屋さんからゴルフ練習場、パワーストーンと霊視相談のお店などが共存しているのです。
飲食店にしても、"手打ちそばと中華料理"など銘打つ大胆すぎるお店から、昭和を思い出させるレストラン(食事をしたあとだったので諦めたのですが、「ビアレストラン 多花美」というこのお店はかなり気になりました)まで、とってもカオス。
ディスっているわけではなく、僕はこういう雰囲気って大好きなので、たちまち魅了されてしまったのでした。
で、そんなフロアの一角に見つけたのが、「おしゃれとコーヒー オルム」。一見すると普通の古い喫茶店ですが、"おしゃれとコーヒー"とあるとおり、ウィンドウにはゴージャス(死語)なドレスやバッグなどがディスプレイされています。
店内でみつけた"おしゃれ"の理由
ここは、なんなのか?
狭い店なのだろうと思っていたのですが、足を踏み入れてみたら、思っていたより広くてびっくり。左右にボックス席がいくつか並んでいて、奥にはカウンターも。
天井には、丸い鏡で仕切られた小型のシャンデリア。その真下にはジュエリーの並んだガラスケースが置かれていて、その背後にはバッグ類が並んでいます。
ガラスケースのすぐ横に、「ビーフカレー(冷凍)\450 ビーフシチュー\540」とだけ書かれた手書きのメニューが見えるのも謎。そして小さな小さな音量で、シャンソンが流れています。
つまりレトロではあるのだけれど、やや統一感に欠けた感じ。なのに、手前のボックス席の柔らかなシートに身を埋めてみれば、なぜか落ち着くので不思議です。
お冷を持ってきてくださったママさんに、アイスコーヒーをオーダーしました。すでにお客さんは2人いて、どちらも常連さんのよう。あとから入ってきた女性も常連さんだったし、地元の人の憩いの場のようですね。
ちょっとうれしかったのは、アイスコーヒーがつくり置きではなかったこと。きちんとコーヒーを挿れ、氷で冷やして一杯分をていねいにつくっているのです。
高校時代にコーヒーショップでバイトしてたから、あの工程はわかるわー。そうやってつくったアイスコーヒーは、やっぱりおいしいんですよね。
事実、飲んでみたら高校時代のことを思い出してしまいました。いまどきのコーヒーショップとは違うけれど、違うからこそ深い味わい。
というわけで、常連さんたちの会話とシャンソンを耳の端で聞きながら、しばし読書を楽しんだのでした。高尾にこんなお店があったとはなー。
お聞きしてみたところ、この建物ができたときから営業していたので、41年目。店名の「オルム」とは、フランス語で楡(ニレ)のことだそうです。
気になるのは「おしゃれ」の部分ですが、昔はフランスから服や装飾品を輸入していたのだとか。だからその名残で、店内にいろいろな商品が並んでいるわけです。
店名やBGMも含め、フランスに並々ならぬ思いがあるお店のよう。しかも、そんなお店が、高尾でいまも営業を続けているというのは、なかなかすばらしいことだなと感じたのでした。
●おしゃれとコーヒー オルム
住所:東京都八王子市初沢町1227-4 高尾名店街2階
営業時間:10:00~19:00
定休日:不定休