いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、荻窪のうなぎ店「川勢」です。

  • 長く愛される"うなぎ"の名店「川勢」(荻窪)(写真:マイナビニュース)

    長く愛される"うなぎ"の名店「川勢」(荻窪)


うなぎとビールが昼から楽しめる人気の店へ

荻窪に住んでいながら、ずっと行けなかった店だったのでした。南口の「安斎」と並ぶ、うなぎの名店。でもコアなファンの多い人気店なので、なんだかハードルが高かったのです(小心)。

それが、北口の「荻窪北口駅前通商店街」なかほどにある「川勢」。以前ご紹介した喫茶店「邪宗門」の並びです。

  • 荻窪駅からは、ここが目印

人気の秘密は、おいしさ、価格のお手軽さ、そして飲み屋としての機能性ということになるのでしょうか。実際、いつ見てみても満員だしな。

とはいえ、いつかは行かなければと思っていたのです。ましてや土用の丑の日も近いということで、お昼に伺ってみることにしたのでした。あ、ちなみに土用の丑の日は、いつも当然ながら行列ができてますね。

ただ、この日は平日でしたし、12時の開店15分くらい前に到着したので余裕……かと思いきや、しっかり数人の行列ができてますねぇ。なるほど、そういうことか、そういうことか。

  • 平日なのに、開店前から行列が……

開店5分ほど前に、暖簾の向こうからおかみさんが「どうぞ」顔を出し、並んでいた人々は順番に店内へ。僕はいちばん後ろの5人目で、入ってすぐの角の席に座りました。

2階には座敷もあるようですが、1階はL字型のカウンターのみ。斜め向かいに座った中年カップルは、慣れた様子でビールと焼き物を注文しています。楽しそう。開店早々、気合が入っている感じですが、そもそもここはそういうお店なのです。その証拠に、ビールを頼んでいる人は他にもちらほら。

ちなみに(特に17時からの「夜時間」は)、串巻、八幡巻、きも焼、ひれ焼、ばら焼、れば焼という構成の「ひととおり」をつまみながら一杯やり、締めにうな丼をいただくというのが王道のスタイルであるようです。

  • 年季の入った厨房

ぶっちゃけ、「飲むのが大前提」の店なので非常に飲みたかったのですが、残念ながら仕事があるんだよなぁ……。ということで泣く泣くビールは断念し、ランチサービスの「うな丼」をお願いしたのでした。

驚かされたのは、仕事の速さです。混雑を見越して準備をしていらっしゃったのでしょうが、注文してからものの5分程度でうな丼が登場したため、ちょっと戸惑ってしまったほど。

ご主人は中野の名店「川二郎」のご出身だと聞きますが、手際のよさからもプロフェッショナリズムが伺えます。

  • 寡黙に無駄なく仕事を進めるご主人

ふっくら「うな丼」のお味は絶品

うな丼に、お吸い物、そして漬物。いくらランチサービスといえども、これで1,400円は間違いなく破格ですね。しかも、味も文句なし。うなぎはふっくらと焼き上がっていて、予想をはるかに上回ったクオリティです。

  • コスパ抜群の「うな丼」(1,400円)

濃いめのタレも絶妙で、最初は「多めかな」と感じたご飯がどんどん進みます。多めどころか適切で、つまりは計算された量であるということだといえそうです。

  • ふっくらと焼き上がったうなぎ

ところで、注目すべきもうひとつのポイントがあります。それは、きゅうりとキャベツのシンプルな漬物。たかが漬物と侮るなかれ。漬かり具合がちょうどよく、箸休めに最適なのです。

  • お吸い物も上品な味つけ

スッキリとしたお吸い物も含め、こういうところに気を使えるお店は絶対的に信用できますね。だからこそ、時流に左右されず、長きにわたって愛されているのでしょう。

いや~、さすがです。ランチサービスとはいえ手を抜かず、きちんとした仕事を貫かれていることがはっきりとわかる逸品。そんなわけで、今度はぜひ、夜の時間にも伺ってみたいと感じたのでした。

とはいえ、夜の時間も混雑必至。その日に仕入れたうなぎはその日のうちに売り切るそうで、20時ごろにはなくなってしまうこともあるのだとか。

ましてやダラダラと長居をするタイプのお店でもないので、空いているときにササっと潜り込み、ササっと飲んでササっと食べて出てくるべきでしょうね。いつか、ぜひチャレンジしてみよう。

  • きっと通いたくなるはず


●川勢
住所:東京都杉並区上荻1-6-11
営業時間:12:00~14:00、17:00~22:00(売り切れ次第終了)
定休日:日曜日