いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、中野の喫茶店「コーヒーロード」です。
店内は陽が差し込む広々空間
中野駅の南口を出たら、交番や立ち食いそばの「中野屋」を左に見ながらバスターミナルをぐるっと左前方へ。そのまま歩くと1分で、左側に「コーヒーロード」が見えてきます。
どこか懐かしい、適度に昭和を感じさせるお店。僕の記憶では、1980年代にはすでに存在していたはずです。かつては打ち合わせで利用したこともあったのですが、考えてみればそれも20年近く前の話。
つまり、ほとんど初めて訪れたようなものなのですが、なんだかびっくり。こんなに広いお店だったっけ?
右側に厨房、左側にテーブル席……というところまではかろうじて記憶に残っていたのですが、とても奥行きがあるのです。
でも、そういうことなら奥も見てみたいじゃないですか。というわけで吸い寄せられるように、まんなか辺のテーブル席へ。奥には窓から陽が差し込む広々としたスペースがあり、とても開放的です。
「この時間だと、まだ奥が空いてるのね」
品のよさそうなお婆さんが、そう言いながら現れて、お気に入りと思しき奥の席に向かいます。たしかに11時半ちょっと過ぎだったから空いていましたが、お昼にはお客さんでいっぱいになってしまうのでしょうね。
というのもここ、ただのコーヒーショップではなく、食事のメニューが充実しているのです。店頭に出ていた大きな看板を見る限り、ナポリタンからすきやきまで、バリエーションがとても豊富。
「ナポリ弁当 味噌汁付き」ってのも気になるところではありましたが、ここはベーシックにハンバーグをオーダーしてみることにしました。
それにしてもいい雰囲気だなー。適度にレトロで清潔で、しっかりお店を守ってこられたのであろうことが手にとるようにわかります。
数人いるスタッフの動きもテキパキと気持ちよく、帰る間際のお客さんに「ありがとうございました。行ってらっしゃいませ」と声をかけたりしています。マニュアルっぽさがなく自然で、いい感じなのです。
そんなせいもあってか、ランチタイム前の朝の時間がゆっくりと流れていきます。ちなみにBGMは洋楽で、オールディーズから1980年代の曲まで幅広かったので、おそらく有線でしょうね。
これぞ"昭和なハンバーグ"を実食
さてさて、そうこうしているうち、あっという間にハンバーグが到着です。
鉄板に、デミグラスソースがたっぷりかかったハンバーグと半熟の目玉焼き、にんじんのグラッセ、いんげんのソテー、コーンのソテー、そしてナポリタン。つけ合わせのスープは、もちろんコンソメです。
これ、どこからどう見ても、子どものころ親に連れて行ってもらったレストランで出てきた、昭和のハンバーグステーキではないですか。
実をいうと、ナポリ弁当に惹かれながらもこっちを選んでしまったのは、メニューにあったハンバーグの写真がとても魅力的だったからなのです。現物を見て、それが間違っていなかったことを確信しました。
まさに、この連載のコンセプトどおりの"昭和なハンバーグ"だといえましょう。
持ってきてくださった女性が「熱いのでお気をつけください」と声をかけてくれたのですが、たしかに鉄板がジュージューと音を立てています。この音だけでご飯が進みそう。
そのため、またもや「子どものころも、ハフハフいいながらこういうハンバーグを食べたっけなぁ」と過去を思い出してしまいました。
そして食べてみたら、このお店が長く続いている理由がわかった気がしたなぁ。喫茶店のサイドメニューというレベルではなく、しっかり手をかけてつくられているであろうことがはっきりわかったから。
ハンバーグのおいしさもさることながら、アクセントとしてのサイドメニューの完成度も高く、食べ終わるまでの時間を存分に楽しむことができたのでした。
これは大正解でしたねえ。食後にストレートのアイスティーをいただいて、大満足です。
とはいえ考えてみると、この連載ではハンバーグを頼む確率が高いような気も……。子ども舌というか、芸がないなぁ。だからというわけではないけれど、次回はナポリ弁当に挑戦してみよう。
●コーヒーロード
住所:東京都中野区中野2-25-3 阿形ビル1F
営業時間:8:30~18:30
定休日:無休