いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
新型コロナウイルスの影響で緊急事態宣言が発令され、店舗営業をするお店が限られているため、今回もテイクアウトのお店をご紹介。阿佐ヶ谷のサンドウィッチ屋さん「サンドーレ」です。
ズタボロの日よけ看板でも愛され続ける理由とは
阿佐ヶ谷駅の南口から、ゆっくり歩いて5分くらい。とはいえ周囲にお店のあまりない住宅街なので、初めて訪れる場合にはスマホのナビが必要だと思われます。それが、今回ご紹介するサンドウィッチ専門店「サンドーレ」。
僕が知る限りかなり昔からあるのですが、いまや相当の年季が入り、日よけ看板もズタズタ。華やかさのかけらもなく目立たないので、気づかないまま通りすぎてしまう可能性もあると思います。
とはいえここ、実は地元の人々から愛されているお店なのです。事実、お昼ちょっと前に訪れたこの日も、お母さんから預かってきたのであろう大きな財布を持った中学生男子が、カウンターの向こうにいるご店主と親しげに話を続けていました。
ちなみに間口が狭いので、複数のお客さんが並べるような環境ではありません。したがって、先客がいたら待つしかないのです。でも、その子の話がまったく終わりそうもないので、自転車で近所をひと巡りしてくることに。
ところが戻ってきたと同時に、別の新しいお客さんに先を越されてしまったので、また待つことになったのでした。仕方がありませんね。つまり、時間に追われているような人に向いたお店ではないということ。ここにはここの時間が流れているので、それに合わせるべきなのです。
10分ほど待って(ほぼ屋外と言ってもいい)店内に足を踏み入れると、ショーケースのなかにサンドウィッチはほとんど残っていません。でも、まったく心配はなし。希望を伝えれば、その場でつくってくれるからです。つまり実質的には、ほぼ確実にできたてを買うことができるわけです。
しかも70代の店主さんは話好きなので、なんということのない会話がとても楽しい。そりゃー地元に愛されるはずですね。
それにしても、値段の安さに驚かされます。なにしろ最低価格のたまごサンドやポテトサラダサンドが160円、いちばん高い(と思われる)ベーコントマトサンドでも210円なのですから。
注文が入るごとに手づくりしているくらいですから、客としても「モトが取れないのではないか?」と余計な心配をしたくなります。そのため思わず「安すぎるんじゃないですか? もっと高くてもいいのに」と余計なことを口にしてしまったところ、ご店主から粋な返答が返ってきました。
「金、そんなにいらねえ。マグロの刺身が食えりゃぁいいよ」
どうしてマグロの刺身が登場するのか謎ではありましたが、要するにお好きなんでしょう。ただそれだけのことだとは思いますが、「必要以上のお金はいらない」という思いがしっかりと伝わってきました。
店主の人柄を感じる手づくりの味わいを堪能
というわけで、まずは店頭になかった野菜サンドとフルーツサンドをつくってもらうことに。その過程を眺めていたのですが、新鮮なトマトとキャベツをこれでもかというくらいに使い、バターもたっぷり塗ってくれていたので、「おいしくないはずがない」といった印象です。
で、「きょうは家に妻と娘がいるなぁ」などと考えていたら勢いがついてしまい、ケースに陳列されていたたまごサンド2種に、かぼちゃコロッケサンドも購入してしまったのでした。
ちょっと買いすぎましたなぁ……。
しかし、これだけ買っても1,300円ぐらいだったので、やっぱり安すぎます。マグロの刺身代を上乗せするべきだったかもしれませんね。
帰宅して食べてみた結果、感じたのは「やっぱり手づくりっていいなぁ」ということ。もちろんデパートなどに入っているベーカリーのサンドウィッチも手づくりなのでしょうけれど、"なにか"が決定的に違うのです。
おそらく、おじいさんの人柄が反映されているということなんじゃないかな? だから、安心して食べられるのではないか? そんなことを感じたのでした。
なおネット上には「22時まで」というようなことも書かれていますが、夕方ごろには閉めてしまうようです。多分、その辺もアバウト。そんなゆるさがいいんですよ。
●サンドーレ
住所:東京都杉並区阿佐谷南3-44-9
営業時間:8:00~
定休日:日曜、祝日