いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は中野にある「食堂 伊賀」です。
中野駅南口を出て、マルイを右に見ながら中野通りを直進すると、5分ほどで中野五差路にぶつかります。そこで交差している大久保通りを右折、すなわち高円寺方向に進めば、白字で「食堂」と書かれた赤い日よけ看板が。
そのお店こそが、今回うかがった「食堂 伊賀」。
ぶっちゃけ、長屋構造になった建物自体、かなり年季の入った感じです。しかもこのお店に関しては、文字が崩壊した手書きの看板がなんとも味わい深い。だから自転車で前を通るたび、いつも気になっていたのです。というよりも、かなり期待していたのです。絶対に、間違いのない店だろうと。
豊富なメニュー驚く「きたなシュラン」認定店
引き戸を開けると、右にテーブル席が3つ、左には厨房とカウンター。テレビに映っているのはNHK。ご主人がひとりで切り盛りされているようです。
「どこでもお好きな席にどうぞ」といいながらお茶を持ってきてくださったご主人は74歳で、来年の1月には75歳。このお店は、もう50年近く、47,8年続けられているのだそうです。
「とんねるずのテレビとか雑誌に出してもらってる関係で、全国からお客さんが来るんですよ」
見ると、「きたなシュラン」とかいう番組の認定証が。見たことがないのでなんともいえないのですが、ご主人は満足そう。にもかかわらず、「認定証」をガムテープで補強していたりするアバウトさが素敵です。
それにしてもメニューが多い。そして、どれもおいしそうです。眺めれば眺めるほど「あれも食べたい、これも食べたい」状態になってしまうので、「おすすめはどれですか?」とお聞きしたところ、「うちはハンバーグが人気です」とのこと。だったらハンバーグ、頼みますよね。
信頼できるなぁと感じたのは、注文してからハンバーグを成形していたこと。それだけの話なのですが、そんなところからも誠意が伝わる気がします。
さっきまで饒舌だったご主人は、注文が入ったと同時に黙々と調理に専念。50年近く店を守ってきた職人気質が垣間見えます。
懐かしさいっぱい"ハンバーグ"を実食
さて、ほどなくしてハンバーグ定食が登場です。
ハンバーグと目玉焼き、キャベツとナポリタンが整列したメインプレートに、ごはんにとみそ汁、もやしとお新香。このフルラインナップは、街の食堂の理想的なハンバーグ定食だといえましょう。
ちなみにハンバーグは、昔ながらの平べったいやつ。分厚くて、肉汁がじゅわっと出るようなイマドキのハンバーグとは対照的です。でも、食堂としてはやはりこうあるべきでしょう。
箸でつまむとホロリと崩れるので、食べやすいかと問われれば戸惑いますが、こうでなくてはいけないのです。なぜならこれは、食堂のハンバーグなのですから。
ごはんが進む濃いめの味つけのデミグラスソースも、なんだか懐かしい感じ。日ごろは玄米しか食べない僕も、「たまにはガシッと白米を食べちゃおうか!」と思ってしまうほどの説得力が、この定食にはあるのでした。
ただ、お昼どきにもかかわらずお客さんは入ってこなくて、それはちょっと寂しい気がしたかな。
「時代に置いていかれてるからねえ。いまの若い人って、骨がある魚なんか食べられないですからね。時代が変わったんでしょうけどね」
そんなことをご主人はおっしゃるのですが、でも、こういうお店は絶対になくなってはいけない。だから、ひとりでも多くの方に利用していただきたいと感じたのでした。
●食堂 伊賀
住所:東京都中野区中野3-8-2 宮園館 1F
営業時間:11:00~15:00、17:00~21:30
定休日:正月、お盆