いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、荻窪のおそば屋さん「小松庵」をご紹介。
バス通り沿いの正統派「小松庵」(荻窪)
荻窪駅南口から「仲通り商店街」に入り、最初の曲がり角を左へ。「文禄堂」や「カルディ」を通り過ぎながらそのまま少し進むと、左側にセブンイレブンのある「荻窪電話局前」交差点にたどり着きます。
そこから信号の向こう側に視線を向けてみれば、いやでも目に入ってくるのが今回ご紹介する「小松庵」というおそば屋さん。バス通り沿いで、もう何十年も前から営業を続けられているお店です。
などとまた知ったようなことを書いてはおりますけれど、じつは一度も入ったことがなかったんですよねー。
いや、信号を渡って直進した先にある中央図書館は学生時代からよく利用しているので、行き帰りにはよく前を通っていたんですよ。でも、とくに理由はないのだけれど、なかなか足を運ぶ機会がなかったわけさ。気にはなっていたのにね。
ってなわけである平日、図書館からの帰りに立ち寄ってみたのでした。
のれんをくぐって驚いたのは、店内が予想以上に広かったこと。右の窓際と左の壁際、中央部分にテーブルが並べられていて、右奥にはソファ席も。かなりの人数を収納できそうですし、全体的に余裕があってゆったりとしているので、どの席を選んでも落ち着けるはず。
厨房は突き当たり奥で、その右上にはニュース番組を映し出すテレビ。
店内では数人の女性が働いており、入ってすぐ右の席に座ろうとしたら、「そこは入り口近くですから、奥の席のほうが落ちつくんじゃないですか?」と声をかけられました。
そういう気づかいって、うれしいですよね。そこで、もう少し奥の窓際の席へ。窓にかかった木製の日除けの向こう側に、通り過ぎる関東バスの姿がうっすらと見えたりもします。
ところで、もうすっかり秋じゃないですか。冷たいおそばが似合う季節ももうおしまい。個人的な夏の定番である「冷やしむじなそば」とも、しばしのお別れです。いや、頼めば出してもらえるとは思うんですけど、気分的にね。
しかも、この連載をお読みになってくださっている物好きな方(失礼な!)ならご存じのとおり、僕は日本有数の「冷やしむじなそば評論家」なのであります。初めて伺ったお店では、どんな冷やしむじなそばが出てくるか気になって仕方がないのです。
そこで今回も、「冷やしむじなそばってできます?」とお聞きしたのでした。そういう聞き方をしたのは、ときどき「むじな」が通じないお店があるからなのですが、こちらでは難なくオーダーが通りました。安心したぜ。さすが、わかってらっしゃる。
いい店なんだなと実感できたのは、ポツリポツリとコンスタントにお客さんが入ってくること。行列ができたり待たされたりすることはないものの、地元にしっかり根づいていることが手にとるようにわかるのです。
でも、やがて運ばれてきた冷やしむじなそばを目にしたら、信頼されている理由がわかるような気もしました。
大きめのどんぶりには、ワカメ、きゅうり、きつね、たぬき、かまぼこ、ナルト、玉ねぎがたっぷり。その下に隠れているおそばの量も多めで、いかにも食べごたえがありそうです。
これは期待できるぞ。
そして、そばが非常においしい。キリッと冷えてコシが強く、喉ごしも滑らかなのです。
つゆはやや辛口で、すっきりとした味わい。そばはもちろん、きゅうりなどの具材との相性も抜群でございます。
それに、重たさを感じさせない程度のボリュームがあるあたりも魅力的。時間をかけてじっくりいただくことができるので、そばと具材とのさまざまな味のバリエーションが楽しめるのです。
さらに食べ終えたころには絶妙のタイミングで、店員さんが「そば湯はいかがですか?」と声をかけてくださったんですよ。気遣いがうれしいですよね。でも、冷やしむじなそばにそば湯が出てくるというケースは珍しいかも。
とはいえ当然のことながら、温かいそば湯は心地よくラストを締めくくってくれたのでした。
いやー、これは予想以上のクオリティだったな。などというのは失礼な表現かもしれませんが、店内の雰囲気もすごくいいし、お昼前からお客さんが集まってくる理由がわかろうというもの。
次回はまた、違うメニューにチャレンジしてみよう。
●小松庵
住所: 東京都杉並区荻窪4-21-16
営業時間: 11:00~15:00、17:00~21:00
定休日: 木曜