いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、高円寺のラーメン屋さん「タロー軒」をご紹介。

  • 今年で創業50年、しかも24時間営業「タロー軒」(高円寺)

今年で創業50年、しかも24時間営業「タロー軒」(高円寺)

そこあるのは当然で、だから「いつでも寄れる」という気持ちがあったのかもしれません。でも、しょっちゅう前を通っているにもかかわらず、考えてみればお邪魔したのは数十年ぶり。よくないことである。

どこの話かって、高円寺の「タロー軒」ですよ。

  • 「高円寺ラーメン」の表示が頼もしい

中央線の高円寺駅からだと「高南通り」を10分くらい南へ歩かねばなりませんし、最寄駅は東京メトロ丸の内線の新高円寺。とはいえ看板に「高円寺ラーメン」と書かれているとおり、ここは高円寺を代表するラーメン屋さんのひとつなのです。

  • 奥行きのないつくり

昭和48(1973)年に埼玉の所沢で開業し、中野の野方を経て昭和53(1978)年に高円寺でこのお店を開いたのだとか。一時期は三鷹にも支店があったらしいし、意外と変遷があるんだなー。しかし、いずれにせよ今年で創業50年になるわけですね。

僕は所沢や野方のお店は知りませんけれど、ここは高校生のころにはすでにあったので、もはや「風景」といっても過言ではありません。昔は、もっと小さい店だったような気がするんだけど。

ただ、20年近く前にリニューアルされてからも、常にお客さんのいる店というイメージは変わらなかったんですよね。そこで今回は、あまり人がいないであろう朝の10時に伺うことにしたのでした。いわゆる「朝ラー」。朝からラーメン食べるのは初めてだな。

  • 向かって右は立ち食いスペース

お店は横に広く、奥行きのないつくり。大きく開け離れた右半分がカウンターのみの立ち食いスタイルになっていて、その向こう側が厨房スペース。

  • 建物の"薄さ"がわかります

サッシの引き戸がついた左半分には、テーブル席が2卓並んでいます。

  • こちらは左側

予想どおり、到着時にお客さんはいませんでしたねえ。やったぜ(なにをやったのか)。

カウンタースペースの左右に券売機があり、まずは左側のそれで食券を購入。

  • まずは券売機で食券を購入

朝からガッツリ食べられるか少しばかり不安ではあったものの、「ラーメン 半カレーセット」にしました。このセット、昔いただいた記憶があるものでね。

  • メニューはこちら

お店のおばちゃんに食券を渡し、誰もいないテーブル席へ移動すると、まずは半カレーが登場。ちなみに半カレーとはいうものの、量的にはほぼ一杯分に相当すると思われます。

  • 先に登場した「半カレー」

それから数分後には、お待ちかねのラーメンが運ばれてきました。

  • ラーメン

カレーとラーメンが並んだ光景は、やはりなかなか迫力がありますね。

  • 食べごたえがありそう

ダイエットなんかあきらめろということだ。覚悟を決めた。ともあれ、まずはラーメンから。

  • 食欲を刺激するルックス

記憶とはいいかげんなもので、ここのラーメンにはあっさりとしたイメージがあったんですよ。でも、ひさしぶりに対面したそれは、背脂が浮いていたりして、意外やコッテリとしたルックス。こんな感じだったっけ?

  • スープは意外とスッキリ

ところがスープをいただいてみると、味は見た目以上にすっきりとした印象。しっかりとした中太麺との相性もよく、たっぷり入ったワカメやメンマもいいアクセントになっていて、全体的にバランスがとれているのです。

  • しっかりとした中太麺

重たすぎず、軽すぎもせず、午前中の胃をほどよく刺激してくれるような感じ。理屈抜きにおいしいと感じるし、このクオリティのラーメンを24時間出せるというのは、どう考えてもすごいことだ。

  • とろけるチャーシュー

そして、お次はカレーライス。ここのカレーがなぜ魅力的かって、典型的な"昭和のカレー"だからですよ。ほら、放っておくと表面に薄い膜ができちゃうような、昔ながらのアレ。

  • 半カレーに福神漬けを

ちなみにどうでもいいことですが、僕はカレーライスに福神漬けやラッキョウは必要ないと思っている人間なんですよねー。もちろん好みの問題ですけど。

ただ、アルミの容器に入ったこの店の福神漬けには、大きく心を揺さぶられてしまったのです。不自然なほどに赤すぎる、いかにも着色料たっぷりで体に悪そうな色味がたまらんなと思って。そういうところに惹かれるのは変態的かもしれませんが、なんとなくわかりません?

  • 色がすごい

さて肝心のカレーです。当然のことながら、味は可もなし不可もなし。いたって普通でございます。もちろん、ほめことばですぜ。なぜなら、こういうお店のカレーは"普通"であってほしいから。すごく専門的だったりしたら、逆に引いちゃうしな。だから、もし既製品だったとしてもまったく不満はなし。いろいろな意味で満足できたのでした。

  • 普通さが魅力

ところで先ほど、朝から食べられるか不安だったと書きました。けれどまったく抵抗なく、しかもおいしく食べられてしまったのでした。そもそも「朝ラー」自体が自分には無縁なものだと思っていたのですけれど、ここまで後味がいいなら、これからはアリかも。

「ごちそうさまでした」と食器をカウンターに戻しながらそんなことを考えていたら、「おはようございます」と声をかけられたのでビックリ。見れば、いつもお世話になっている阿佐ヶ谷の自転車屋さんがニッコリ。

こんな時間に、こんなところで会うとはね。でも、そんなところもまた中央線沿線っぽい気がしたのでした。

●タロー軒
住所: 東京都杉並区高円寺南2-16-13
営業時間: 24時間
定休日: 無休